植物細胞の脱分化を促進するたんぱく質を発見
:理化学研究所/産業技術総合研究所

 (独)理化学研究所と(独)産業技術総合研究所は3月11日、植物が傷口を修復するためにカルス(未分化の植物細胞の塊り)を形成する際にスイッチ役として働くたんぱく質「WIND1」を共同で突き止めたと発表した。
 植物細胞は、個体を形成する際に葉や根など特定の細胞に分化するが、新たんぱく質はそれらの細胞を特定の性質を持つ前の未分化状態に戻す「脱分化」機能を持つという。植物細胞の脱分化の仕組みを分子レベルで明らかにしたのは世界で初めて。研究グループは、今回の成果が組織培養による植物の増産や有用物質生産などに貢献すると期待している。
 実験では、植物の傷口で細胞の脱分化を促す物質を探るため、アブラナ科の「シロイヌナズナ」の脱分化した細胞の中で特に活発に働いている遺伝子を探した。3種類の遺伝子が見つかったが、この内特に植物が傷ついた時などに関与する遺伝子に注目、どのような時に働くかを調べたところ、植物が傷ついてから数時間で強く働くことが分かった。
 そこで、植物体内でこの遺伝子の働きを人為的に働かせたり、働きを止めたりする実験をしたところ、過剰に働かせると植物体の各器官で細胞の脱分化が進んでカルスが形成され、反対に止めるといったんカルスになった細胞から茎や葉、根が再生してくることが確認できた。そこで研究グループは、この遺伝子が植物体内で作るたんぱく質が脱分化のスイッチ役を果たしていると判断し、WIND1と名づけた。
 農業や園芸では、古くから苗の増殖法として挿し木が活用されており、植物が傷口の細胞を脱分化させて効率よく増殖することが知られていた。研究グループは今後、今回の成果を利用した効率的な脱分化・再分化による組織培養技術を確立し、優良品種の大量栽培や医薬品など有用物質生産のための品種開発などに役立てたいとしている。

詳しくはこちら