ガンマ線バースト観測からアインシュタインの「光速度不変の原理」を検証
:宇宙航空研究開発機構/広島大学/東京工業大学など

 (独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月29日、同機構や広島大学、東京工業大学、東京大学、早稲田大学などの研究者を含む国際衛星「フェルミ」のガンマ線宇宙望遠鏡チームが、今年5月10日に発生した遥か彼方の「ガンマ線バースト」といわれる天体現象の観測から、アインシュタインの相対性理論の基礎ともいえる「光子のエネルギーが違っても、その速度は変わらない」という「光速度不変の原理」を高精度で検証したと発表した。この成果は、同日(日本時間)発行の英国の科学誌「ネイチャー」のオンライン版に掲載された。
 「フェルミ」衛星は、昨年6月に米国が打ち上げた大型天文衛星で、毎日、宇宙の彼方から飛んで来る全天の高エネルギーのガンマ線を観測している。この衛星の開発には、日本、米国、イタリア、フランス、スウェーデン、ドイツの各国が協力。日本は、主要観測機器のシリコン検出器の開発に1995年から参画、従来とは桁違いに高いエネルギーのガンマ線検出能力実現に貢献した。衛星が軌道に乗ってからは、JAXA、広島大、東工大を中心とするメンバーが、何時起きるか分らないガンマ線バーストに備えて日本での日中の時間帯のデータ監視を受け持っている。
 今年5月10日のガンマ線バースト(ガンマ線が閃光のように放出される現象)は、日本の衛星監視中に起き、通常のバーストより1万倍以上高い10億電子V(ボルト)を超す高いエネルギーのガンマ線が多数見つかり、最高は310億電子Vもあった。これは、観測された史上最高のガンマ線バーストで、その後の種々の情報に基づく計算から、バースト源までは約73億光年離れていることが分った。電磁波(光子)の仲間であるガンマ線が、こんな遠距離から検出されたのは、これが初めてで、この観測を利用して「高速度不変の原理」の検証が試みられた。
 アインシュタインの相対性理論の「光速度不変の原理」では、光やガンマ線など電磁波の速度は真空中では全て等しいとされる。しかし、量子力学と相対性理論の統一を目指す理論(量子重力理論)には10のマイナス33乗cmという極小の世界ではこの原理は成り立たず、光速は光子のエネルギーに依存する、とするモデルもある。だが、この光速の差は、極めて僅かなので、その検証には非常に遠くの光源からの高いエネルギーの光子と低いエネルギーの光子の速度の違いによる到達時間差測定が必要となる。実験室では、実際的な測定が不能だったその到達時間差測定が今度のガンマ線バースト観測を利用して行なわれた。
 距離は、約73億光年もあり、光子のエネルギーも最高310億電子V(可視光の約100億倍)もあるので、エネルギーによって光子の速度に違いがあれば計測できるはずだった。ところが、実際に測定してみたら、最高エネルギーの光子の到達時間は他のエネルギーの光子のそれと比べ、大きく見積もってもせいぜい0.83秒しか遅れていないことが分った。これまでの量子重力理論では、これ以上の遅れになるので、光速度不変の破れを予言する理論の枠組みに強い制限が課せられたといえる。

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