ミノムシの糸に電気を通す新素材開発―光ファイバーや繊維型トランジスターへの応用へ:筑波大学
(2021年10月22日発表)
緑色レーザーを伝搬する複合繊維
©筑波大学
筑波大学数理物質系の後藤博正准教授らの研究グループは10月22日、天然繊維としては最も丈夫なミノムシの糸を、導電性高分子のポリアニリンと組み合わせて、両方の特徴を併せ持つ高機能の複合繊維の作成に成功したと発表した。レーザー光を通す光ファイバーや、電流を制御できる繊維型トランジスタとしても使える。人や動物の神経伝達機構のモデルへの応用も可能と見ている。
天然シルク繊維のミノムシの糸は、これまで最強とされていたクモの糸を凌ぐ強度のあることが分かってきた。さらに光の進行方向を変化させる光学活性も持っている。
ポリアニリンはこれまで電池の電極や導電性インクなどに使われ、原料が安価で簡便に合成できるものの、光学活性がないため他の物質との複合化が求められていた。
研究グループはミノムシの糸を水中に浸し、その水中でポリアニリンを合成した。
アニリンが酸化剤によってポリアニリンに変化する過程で、水素結合によってミノムシ糸の表面にポリアニリンが吸着した複合繊維ができる。水で洗浄した後、乾燥するだけの極めて簡素な作業だ。細い繊維が自在に絡まった部分を走査型電子顕微鏡で調べると、繊維一本一本をはっきりと見ることができた。
ミノムシ糸の強度とポリアニリンが持つ電気伝導性や磁性を併せ持っており、繊維方向に電気伝導性を持つこと分かった。繊維断面の中央から緑色レーザーを照射すると、繊維に沿ってレーザー光が進み光ファイバーのような性質を持つことが分かった。
さらに複合繊維に電気化学的な酸化還元を行ってトランジスタを作成した。これに電圧をかけると電極間の電流が大きくなり、電流を制御できる繊維型トランジスタとして使えることも確かめた。
この導電性複合繊維を布やケーブル状に形成すると、十分な力学的強度と、導電性や静電防止効果を持つシートやワイヤーが作れる。
将来はこの複合繊維を細い分子ケーブルとして活用することで、神経をモデルにした信号伝達機構の解明に使えると見ている。