トマトの色素成分の違いから食味を探る―クロロフィルが多い品種は糖類が多い:筑波大学
(2021年6月24日発表)
筑波大学生命環境系の草野都教授の研究グループは6月24日、トマトの果実の色素のうちクロロフィル(葉緑素)とカロテノイド(赤黄色の色素)を簡単、迅速に測定する技術を開発したと発表した。既に知られている香気成分と糖類に、色素成分を加えて統合的に解析することによって、トマトの色と食味の関係性を見つけた。将来の品種改良につながる貴重な発見という。
トマトは身近な食材だが、まだ解明されていない未知の機能が多い。
その食味を左右するのは、甘味(グルコース、フルクトースなどの糖分)やクエン酸などの有機酸とともに、様々な香気成分が重要な役割を担っている。
特に果実の赤色や黄色を作る色素カロテノイドが分解されてできるアポカロテノイドの香り成分は、トマトの甘味を強める効果が知られている。だが色素組成の違いが食味に与える影響は分かっていなかった。
研究グループは、まず果実の色の基本となるクロロフィルとカロテノイドを迅速、簡単に測定する方法を開発した。多数のくぼみを付けたプレートに色素抽出物を入れ、光の吸収度を調べると、クロロフィルやリコペンの含有量とカロテノイド総量が同時に測定できた。
既存の測定器では数十分もかかったが、開発した新測定器ではわずか数十秒と大幅に短縮ができ、多品種の分析が可能になった。
赤色系のトマトの代表的な品種である「エイルサクレッグ」や「マネーメイカー」、ミニトマトの「マイクロトム」を分析し、成熟過程での色素含有量の変化を調べたところ、「緑」「黄」「赤」の果実色に対応した色素含有量の差が分かった。
次に157品種の成熟トマト中のクロロフィルとカロテノイドの含有量を測定した。このうち142品種は赤色の品種で、カロテノイド総量に占めるリコペンの割合が50〜60%前後あり、赤く熟したトマトではこの比率が保存されている。
157品種の「糖」と「香気」成分の分析結果に「赤色」成分を組み合わせて、果実中の色素と食味の関係を統合的に解析した。その結果、クロロフィルaを多く含む品種群は、グルコース、フルクトースの含量が、他の品種群より高かった。
また2品種からは、甘い香りのMHO(6-メチル-5-ヘプテン-2-オン)が平均値の5倍も多いことを見つけた。リコペンの含有量は非常に少ないものの、カロテノイド総量は他の品種と変わらないことから、何らかのカロテノイドが蓄積しているとみて謎解きをした。
その結果、MHOが多く蓄積した品種の一つの「デキシー・ゴールデン・ジャイアント」の果実中には、リコペンの異性体(同じ分子式で構造が異なるもの)であるプロリコペンと思われるカロテノイドだけの蓄積が認められた。このプロリコペンが「デキシー」中でMHOを生産する唯一の材料であると考えられる。カロテノイドは他の品種の果実中にはみられず、プロリコペンが効率的にMHOに変換することによって生じたものと推定している。
これらはトマトの品種改良につながる重要な発見であり、品質向上や新たな品種開発につなげたいとしている。