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ドーピング検査の精度保証へ―標準物質2種を開発:産業技術総合研究所

(2020年3月23日発表)

 (国)産業技術総合研究所は3月23日、運動選手による不正薬物使用をチェックするドーピング検査用の認証標準物質2種を開発したと発表した。標準物質は検査に使う分析機器の精度保証に欠かせないもので、世界ドーピング防止機構(WADA)がオリンピック・パラリンピックの検査基盤強化の一環として開発を要請していた。

 国際競技大会などでドーピング検査の対象になる禁止物質は、現在300種類以上にのぼる。検査では運動選手の尿や血液を採取して禁止物質の有無を調べるが、近年では生体内で代謝された微量成分を検出して過去のドーピングの有無まで調べるようになっている。そのため分析に使う機器の目盛りの正確さを標準物質で確認し、検査精度の信頼性を保証することが不可欠となっている。

 今回、開発したのは、①排卵誘発剤などに用いられ乳房の女性化を抑制したり、ドーピングを隠ぺいしたりするのに悪用される「4ヒドロキシクロミフェン」、②生体内で筋肉増強作用などのあるステロイドホルモンに変化する「3β,4α-ジヒドロキシアンドロスタン17オン」の2種類の薬物についてドーピングの有無を正確に定量するのに必要な標準液。ドーピングの検体分析機関は、これらの標準液を希釈して分析機器を校正すれば、検体中の不正薬物を正確に定量分析できる。

 一般に標準液は原料物質を溶媒に溶かして調整するが、これまで有機化合物の純度決定法では時間と手間がかかり、数カ月程度の時間が必要だった。これに対し今回、産総研は定量核磁気共鳴分光法と液体クロマトグラフィーを組み合わせた測定技術などを利用して効率よく開発することに成功した。認証標準液は既に検査分析機関などに向けて頒布を開始した。

 産総研は「オリンピックやパラリンピックをはじめとする国際競技大会などでのドーピング検査の信頼性向上に貢献する」と話している。