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氷の高圧化における異常な振る舞いの起源突き止める―水素の移動様式の変化モデルで説明可能:東京大学/総合科学研究機構/日本原子力開発機構ほか

(2020年3月10日発表)

 東京大学と総合科学研究機構、日本原子力開発機構 J-PARCセンター、ソルボンヌ大学(フランス)の共同研究グループは3月10日、氷の相転移速度が10GPa付近で最も遅くなるという現象を実験的にとらえ、この異常な振る舞いの起源を突き止めたと発表した。氷と同じような水素結合を持つ他の物質でも同様な現象が見つかる可能性があるという。

 水は0℃で液体の水から固体の氷に、100℃で液体の水から気体の水蒸気に変わる。同じ分子や原子で構成されているにもかかわらず、温度や圧力などで物質の構造が変化することを相転移という。

 氷には異なる結晶構造を持った多形が少なくとも19種類存在しており、圧力が2GPaを越すとその種類はずっと減ることが知られている。19種のうち氷Ⅶ相と名付けられた結晶構造の氷は2GPa以上で広く安定だが、X線回折や電気伝導度、水素の拡散係数、ラマン散乱、X線照射による水分子の分解速度など様々な観測で、構造的には明瞭な変化が見られないにもかかわらず、いずれも10GPa付近で異常な値や異常な振る舞いを示すことがこれまでに見出されていた。

 研究グループは今回この謎の解明に挑戦し、異常現象の実態を実験的に確認、解明するとともに、異常現象の起源を解き明かすことに成功した。

 氷は典型的な水素結合性物質なので、水素原子を捉えられる中性子回折法で観察することとし、実験はJ-PARC(大強度陽子加速器施設)の超高圧中性子回折装置を用いて実施、氷Ⅶ相からⅧ相への相転移を観察した。

 その結果、相転移速度は圧力上昇とともにいったん遅くなるものの、10GPa以上では逆に速くなるという、これまで知られていなかった新たな現象を発見した。これは、氷Ⅶ-Ⅷ相転移における水素の秩序化の速度が10GPa付近で最も遅くなることを示している。

 氷Ⅶ相からⅧ相への相転移には水素の移動が必要で、その実現には水分子の回転運動と、隣の酸素への水素の並進運動の2つが考えられる。実験の成果を考察した結果、研究グループは「加圧によって水分子の回転運動は遅くなり、一方で水素結合上の水素の移動(並進運動)は速くなる」と考えると説明がつくことを見出した。

 これにより、水素の移動様式の変化こそが氷Ⅶ相の10GPa付近での異常な振る舞いの起源であることが突き止められたとしている。