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探針を操作し分子内の特定の位置に原子・分子を付加―ボトムアップ型の化合物合成の実現に向けて成果:物質・材料研究機構

(2020年2月29日発表)

 (国)物質・材料研究機構と大阪大学を中心とする国際研究チームは2月29日、ナノテクの有力な道具である走査型プローブ顕微鏡の探針を用い、一つの分子内の特定の位置に対して、臭素原子やフラーレン分子を直接的に付加反応させることに成功したと発表した。従来の溶液中の化学合成では得られない機能的な炭素ナノ構造体の合成を可能とするもので、ナノエレクトロニクス素子の開発への応用が期待されるという。

 走査型プローブ顕微鏡は、先端が尖った探針(プローブ)を物質の表面になぞるように動かし、物質と探針との相互作用を検出して物質の表面形状や状態を観察する顕微鏡。微小な電流を捉える走査型トンネル顕微鏡、原子間力を検出する原子間力顕微鏡などがあり、ナノテクの主要なツールになっている。

 近年、技術が大幅に向上し、物質の表面上に吸着した単分子一つの構造を直接観察したり、探針を使って分子から特定の原子を取り除いたりすることができるようになってきたことから、一つの分子を操作して望みの物質を合成するボトムアップ型の化合物合成が世界的に試みられている。

 研究チームは今回、炭素原子一層から成る炭素ナノ構造体のグラフェン様の分子を対象に、分子の特定の部位に新たな原子や分子を直接くっつける付加反応に挑戦、その試みに成功した。

 まず、3次元グラフェンナノリボンと呼ばれるユニークな3次元構造の分子を重合反応で作製した。今回試みたのは、この3次元グラフェンナノリボンの飛び出している部分に結合している臭素原子を探針を使って取り除き、除去した部分に新たにフラーレン分子を探針で取り付けるという操作。

 溶液中で飛び出している臭素原子を取り除くと、取り除かれた部分の炭素は不対電子を持つため不安定になってすぐに他の分子と反応してしまう。そこで、極低温、超高真空という極限環境を用いて臭素原子が取り除かれた状態を維持するようにし、そのもとで、探針の先につけたフラーレン分子を反応性の高い部位に直接的に取り付け、付加反応を実現した。

 不対電子を持つ炭素に再度臭素原子を導入し、安定化させることにも成功した。

 今回の手法を用いるとナノグラフェンの構造を超精密に変化させることができ、新機能素子などの開発が期待されるとしている。