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精子が卵子の膜を突き破るには酵素「アクロシン」必須―アクロシンの異常が男性不妊の原因の一つとして浮上:理化学研究所

(2020年1月20日発表)

 理化学研究所の国際共同研究グループは1月20日、受精の時に精子が卵子透明帯を通過するには「アクロシン」というたんぱく質分解酵素が必須であることが明らかになったと発表した。男性不妊の原因の一つとしてアクロシンの異常が考えられるという。

 哺乳類の卵子は、透明帯と呼ばれる糖たんぱく質の膜に包まれていて、物理的な衝撃や感染から守られている。この透明帯はゴムのように丈夫なため、受精の際に精子にとっては大きな障壁になる。精子が透明帯を通過するのは、精子の物理的な推進力と、精子の頭部に含まれるたんぱく質分解酵素の化学的な力によると考えられてきたが、化学的な力による透過のメカニズムは不明だった。

 研究グループは今回、東海大学が開発した「i-GONAD法」という電気穿孔(せんこう)法を実験動物のゴールデンハムスターに適用し、たんぱく質分解酵素アクロシンを欠失したアクロシンノックアウトハムスターを作成した。作成したのは5匹で、それらのハムスターを交配させて2つのアクロシンノックアウト系統を樹立した。

 この2系統の雄を野生型の雌と自然交配させたところ、子は全く得られず、不妊だった。

 光学顕微鏡で観察したところ、ノックアウト精子は透明帯に結合できるものの、通過できなかった。透明帯を除去した卵子を作り、それとノックアウト精子を体外受精させたところ、すべての卵子が受精した。

 これらの結果から、アクロシンは透明帯通過に必須の因子であることが分かった。

 アクロシンはヒトを含めた哺乳動物種の精子に豊富に含まれているため、ハムスター以外の動物でも同様の機能を持つことが考えられるという。アクロシンの異常は男性不妊の原因である可能性があり、人の不妊治療の現場における男性不妊の治療上の一つの指標になると期待されるという。