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ゲノム編集によって良好なコムギの品種改良に成功―オオムギの遺伝子情報を基に、雨に濡れても穂発芽しないコムギを生産:岡山大学/農業・食品産業技術総合研究機構

(2019年7月31日発表)

 岡山大学資源植物科学研究所の佐藤和広教授と、(国)農業・食品産業技術総合研究機構の安倍史高主任研究員らの研究グループは7月31日、収穫時期に雨に濡れても発芽しにくいコムギを、最新のゲノム編集によって開発に成功したと発表した。雨の多い日本では収穫期の降雨によって、穂に実った種子から芽が出てしまう「穂発芽(ほはつが)」が起き、商品価値が落ちる。経済被害額は北海道だけでも年間140億円に上るだけに、有効な品種改良技術として注目される。

 コムギは6000年以上前に3種類の異なる植物が自然に掛け合わさってできたとみられ、3組のゲノム(全遺伝情報)を持っている。Aゲノム、Bゲノム、Dゲノムで、それぞれに7対の染色体がある。このように類似した遺伝子が重複していると、ある特性を左右する遺伝子を選別したり決めたりすることが、そのままでは困難だった。

 オオムギとコムギは共通の祖先を持ち、約300万年前に分かれたとされる。オオムギにも同じように7対の染色体(Hゲノム)が1組あり、遺伝子配列がよく似ている。さらに種子休眠を変える作用(種子休眠遺伝子)がオオムギの5番目(5H)の染色体にあることが知られていた。この遺伝子が働かなくなると種子の休眠が長くなる。

 このことから研究チームはコムギの3組のゲノムから、オオムギの種子休眠遺伝子と最もよく似ている塩基配列の解読に乗り出した。さらに3組の遺伝子に対して一度に変異を導入し、種子の休眠時間を長くする操作を試みた。  

 コムギのゲノム編集には土壌細菌を使った。効率よく種子休眠遺伝子の配列を変えた結果、3組の遺伝子の全てが変わったコムギを得ることに成功した。かかった期間は1年2ヶ月で、これまでの品種改良と比べて極めて短期間で実現した。

 これらの植物を同時に育てて種子を獲り、休眠の長さを比較したところ、遺伝子が変化したコムギでは、変化していないコムギと比べて明らかに休眠が長く、発芽が遅れて、目指す効果が得られた。

 コムギ以外にも複数のゲノムを持つ植物は全体の4分の1ほどあり、その中には重要な作物が多く含まれている。今回のゲノム編集手法を使うことで、長い時間と労力をかけていた他の作物の品種改良を大きく効率化させるものと期待されている。