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室温動作の量子コンピューター実現へ―ダイヤモンドに3量子ビット構造:量子科学技術研究開発機構/群馬大学/筑波大学

(2019年6月13日発表)

 ()量子科学技術研究開発機構、筑波大学などの研究グループは613日、室温で動作する量子コンピューターに不可欠な成果を得たと発表した。「3量子ビット」と呼ばれる構造をダイヤモンド結晶中に作ることに成功、計算処理の高速化や高精度化のために不可欠とされる多量子ビット化に道をひらいた。

 量子コンピューターは、原子や分子など極微の世界で起きる現象を理論的に説明する量子力学に基づいた動作原理によって、従来のコンピューターでは考えられない高速計算処理を実現しようという技術。

 通常のコンピューターで用いられる計算の単位「ビット」は01だが、量子力学の世界では両者の重ね合わせの状態「量子ビット」としてあらわされる。これを利用すると、同時に無数の並列計算処理が可能となり、従来のコンピューターにはない高速計算が可能になる。ただ、そのためには複数の量子ビット間の相互作用が必要で、計算処理の高速化や高精度化には複数の量子ビットをダイヤモンド中のすぐ近くに作る多量子ビット化が望まれていた。

 今回、研究グループは、複数の窒素を含む有機化合物のイオンを電磁気力で加速、イオンビームにしてダイヤモンドに注入する新技術を開発した。その結果、ダイヤモンド結晶中の2個の炭素原子の1個を窒素に、もう1つの炭素原子を空孔にし、窒素と空孔のペアがすぐ近くに3個並ぶ構造を作ることに成功した。

 窒素と空孔のペアが量子ビットとして機能するには「量子もつれ」と呼ばれる特殊な現象が起きることが必要。そのためにはペア同士がすぐ近くにあることが条件になるが、実験では3個のペアは20nm(ナノメートル、1nm10億分の1m)内にあることを確認、3量子ビットが実現できたと判断した。

 室温で動作可能な量子コンピューターの実現に向けて、窒素イオンをダイヤモンドに注入して量子ビットを作る技術はすでに報告されているが、従来は複数の窒素・空孔を狭い領域に作ることが難しく2量子ビットにとどまっていた。