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機械学習を用いX線吸収スペクトルの解析を自動化―客観的で高精度な定量分析が可能に:高エネルギー加速器研究機構ほか

(2019年4月19日発表)

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と東京理科大学、統計数理研究所の共同研究グループは419日、物質・材料研究に欠かせないX線吸収スペクトルの解析を、機械学習を用いて自動化・高効率化することに成功したと発表した。高温超電導物質や磁性・光学材料といった新材料の研究開発の迅速化が期待されるという。

 X線吸収スペクトルは物質にX線を照射し、照射X線のエネルギーに応じた吸収量を測定してグラフ化したもの。物質の機能や性質を支配している電子状態などを調べる手法として広く活用されている。

 ただ、測定で得られるX線吸収スペクトルの理解は難しく、これまでは専門家が経験と知識に基づいて、スペクトルに対応する材料パラメータと呼ばれる物理量を推定してきた。この作業は人的にも時間的にもコストがかかり、スペクトル計測の高速化に追い付けないという課題なども抱えていた。

 研究グループは高度なこの作業に人工知能(AI)の手法である機械学習を導入することを考え、その際、データの類似度の重要性に着目し、新手法を構築した。類似度はデータ同士がどのくらい似ているか、あるいは異なっているかを測る尺度で、尺度は様々あり、使い分けが必要になる。

 そこで研究グループは、スペクトル形状の微妙な変化をとらえて物理量を解析するために適した類似度について検討、類似度の適切な選定を可能にした。その結果、専門家による解析と同程度の精密さで、スペクトルに対応した物理量を予測できることが実証された。解析は自動で高速に行え、スペクトル1本当たりの解析時間は0.1ミリ秒程度という。

 新手法を用いると、データ解析における解析者の主観を除き、客観的で高精度な定量分析が可能としている。