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液中のナノメートルサイズの抗体凝集体を観察―前処理一切行わず可能に、抗体医薬品の開発などに朗報:産業技術総合研究所

(2019年3月28日発表)

 (国)産業技術総合研究所は328日、水溶液中のナノメートルサイズの超微小な抗体凝集体をありのままの状態で観察することに成功したと発表した。抗体医薬品の開発や製造では抗体の凝集体を観察する分析技術が求められるが、水溶液中の数十nm(ナノメートル、1nm10億分の1m)から数百μm(マイクロメートル、1μm100万分の1m)以上の様々なサイズ・形状の抗体凝集体を乾燥や染色といった前処理を一切行わずにそのまま計測できることも併せて実証した。

 抗体は、細菌やウイルスから体を守ってくれるたんぱく質の一種。その分子が集まって大きくなったものが抗体凝集体。抗体を利用する抗体医薬品では、凝集体ができ易く発生すると薬効が低下するだけでなく、患者に悪影響を及ぼす可能性のあることが指摘され、FDA(米国食品医薬品局)ではガイドラインで警鐘を鳴らしており、抗体凝集体を正確に評価すると共に可能な限り取り除くことが求められている。

 しかし、水溶液中で生成する全てのサイズの抗体凝集体を評価できる単一の手法はまだ無い。たとえば、電子顕微鏡は、幅広いサイズを観察することができるものの、サンプルを真空中に置かねばならない上に前処理が必要という使い難さがあり、照射される電子線による悪影響という心配もある。

 このため、前処理などを行わずに水溶液中のありのままの状態で凝集初期の微小な抗体凝集体から成長した凝集体までを幅広く観測できる分析方法が求められている。

 今回の成果は、産総研がライフサイエンス用の顕微鏡として先行開発していた“新兵器”「走査電子誘電率顕微鏡(SEADM)」を使って得たもので、水溶液中のナノメートルオーダーの超微小なヒトモノクローナル抗体の凝集体を初めてそのままの状態で観察することに成功した。

 また、様々な形をした凝集体の細部の構造まで観察できる高分解能の画像を撮影することもできた。

 さらに、試料を長期間培養して成長過程を調べたところ、1日経過時点では20~70nmの大きさでしかなかったものが3週間後には数十μm以上の抗体凝集体にまで成長し、その幅広いサイズ分布を網羅的に観察することができた。

 産総研は、今後も引き続き様々な抗体の凝集体についてSEADMによる観察を実施して「抗体の凝集化メカニズムの解明に取り組んでいく」といっている。