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乳由来のラクトトリペプチドに脳活性化の作用―中高齢者の認知機能低下を抑える効果期待:筑波大学

(2019年1月16日発表)

 筑波大学は116日、発酵乳に含まれる「ラクトトリペプチド」が脳の活性化に効果的であることを、アサヒグループホールディングス(株)との共同研究で解明したと発表した。ラクトトリペプチドには中高齢者の認知機能低下を抑制する効果が期待できるという。

 ラクトトリペプチドはカルピス酸乳の研究で見つかったもので、乳カゼインが乳酸菌で発酵分解される過程で生成される3つのアミノ酸が結合したトリペプチド。血管の収縮に関係する酵素を阻害する働きがあり、高めの血圧を下げることや血管内皮機能の改善効果があることが知られている。

 研究グループは今回、機能的近赤外線分光法(fNIRS)という技術を使って、ラクトトリペプチドの脳内での働きを調べた。

 実験は、疾患のない中高齢者64人を2群に分け、1群はサプリメントのみを摂取する群、もう1群はサプリメント摂取と運動を併用する群とし、両群とも半数の人にはラクトトリペプチドを、残り半数の人にはプラセボという効果のないサプリメントを8週間摂取してもらった。

 機能的近赤外線分光法では、認知・実行機能を担っているとされる前頭前野の脳酸素化ヘモグロビン濃度の変化を測定した。脳の神経活動が起きると、活動部位で、酸素と結合した酸素化ヘモグロビンが増えるので、その濃度を測定することで脳活性化の状態を観察できる。

 認知機能の評価としては、実行機能を評価する認知課題として知られるストループ課題を実施した。それらの結果を8週間の研究期間の前後で比較し、ラクトトリペプチドの効果を検証した。

 その結果、サプリメント摂取のみと、運動併用の両群とも、プラセボを摂取したグループと比較して、ラクトトリペプチドを摂取したグループでは左右の前頭前野の脳活性化の向上が認められた。

 また、ラクトトリペプチド摂取による脳活性化は認知機能の改善と関連する可能性が示された。これらのことから、運動習慣の有無にかかわらず、ラクトトリペプチドを継続的に摂取すると、脳が活性化され認知機能向上につながる可能性が示されたとしている。