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省エネ型量子演算素子の候補の量子状態を創出―コバルト酸化物を使って初めて実現:東北大学/東京理科大学/茨城大学/高エネルギー加速器研究機構ほか

(2018年12月14日発表)

 東北大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、J-PARCセンターなどの研究グループは12月14日、将来の省エネルギー型量子演算素子実現の候補として期待される「励起(れいき)子絶縁」という量子状態、あるいはそれに極めて近い量子状態の創出に成功したと発表した。省エネ型量子コンピュータ開発を視野に入れた基礎研究の急速な進展が期待されるという。

 励起子絶縁は、電荷がマイナスの電子と、プラスの電荷を帯びた正孔が対になると出現し得ると理論上予測されている特殊な絶縁状態。2つの電子が対になった超伝導状態では抵抗なしに電流が流れるが、励起子絶縁状態では量子演算や励起子超流動などの量子現象が予想されている。

 研究グループは今回、コバルト酸化物LaCoO3を用いて、励起子絶縁状態もしくはそれに極めて近い量子状態である電子スピン状態を創り出した。

 低スピン状態と高スピン状態のエネルギーが近いと、どちらか一方の状態ではなく、両者の量子力学的な重ね合わせという「非従来型のスピン状態」になることが理論的に示唆されてきたが、励起子絶縁につながるこの非従来型スピン状態はこれまで作り出されたことはなかった。

 研究グループは、低スピン物質であるLaCoO3から出発し、Co(コバルト)の一部をSc(スカンジウム)に置き換えることによって低スピンと高スピンとの量子混交を実現できると考え、様々なSc置換量を持つLaCo1-yScyO3を合成、各種の特性、性質などを調べた。

 その結果、Sc置換を進めるのに伴い、Co―O間距離の収縮、2状態のエネルギーの接近、電気絶縁性・磁化率・磁気膨張率の増大が観測され、この新状態のすべての特性が、非局在的な低スピンと高スピンの量子重ね合わせモデルと一致した。 

 これにより、スピンの励起子絶縁もしくはそれに極めて近い量子状態にあるコバルト酸化物LaCo1-yScyO3の創出が確認されたという。

 今後、基礎研究面では特性評価や機構解明などの進展が期待されるとともに、応用面からは、電気を流さない省エネ型量子コンピュータの研究の加速が期待されるとしている。