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「痩(や)せるホルモン」を分泌させる物質を作ることに成功―藻(も)の一種ミドリムシを原料に使って:産業技術総合研究所ほか 

(2018年5月21日発表)

 (国)産業技術総合研究所は521日、「痩せるホルモン」の分泌を大幅に増やす働きを持つ物質を、藻の一種のミドリムシから得ることに成功したと発表した。(株)アルチザンラボ、(株)神鋼環境ソリューションとの共同研究で得た成果で、マウスに与えたところ、「痩せるホルモン」といわれるGLP1(グルカゴン様ペプチド-1)の分泌が3倍にもなることが分った。

 ミドリムシは、長さおよそ50µm(マイクロメートル、1µm100万分の1m)、幅が同10µmという微細な藻で、光合成を行なう植物的な性質と、鞭毛によって泳ぎ回る動物的な性質の両方を併せ持つユニークな生物。ビタミン、ミネラル、アミノ酸などを多く含むことから様々な用途が期待され、既にサプリメント(栄養補助食品)や化粧品などに使われている。

 今回の新物質は、ミドリムシの細胞内に蓄積されているブドウ糖分子が2,000個程度つながってできたパラミロンという高分子をベースにして得た。

 パラミロンは、ミドリムシの細胞内に多量に含まれていて、容易に抽出・精製でき、産総研はさまざまな分野への利用研究を進めており、これまでにパラミロンを出発原料にしてバイオプラスチックを開発したことを発表している。

 共同研究は、その産総研とミドリムシの大量培養技術を持つ神鋼環境ソリューション、医療に関する知見・技術を保有するアルチザンラボの3者が力を合わせ、糖尿病治療薬の開発を念頭に行った。

 パラミロンそのものは、水に溶けない多糖類だが、プラスの電荷を持つカチオン性の原子団(官能基)を導入したカチオン化パラミロン誘導体にすると水に溶けるようになる。

 開発した新物質は、そのカチオン化パラミロン誘導体の一種で、「2-ヒドロキシ-3-トリメチルアンモニオプロピルパラミロン」、略称を「HTAP」といい、水に溶ける。実験では、これを2wt%含む高脂肪食を体重約28gの肥満モデルマウスに5週間にわたって食べさせ、同量のセルロースを同じ期間与え続けた対照群との体重や内臓脂肪量の変化の違いを調べた。

 その結果、HTAPを投与し続けた方が対照群よりGLP1の分泌が3倍程度多くなり、体重増加が半分程度、内臓脂肪量が3338%少なくなる事が分かった。

 HTAP投与でなぜGLP1の分泌が促進されるのかは、まだ分かっていない。産総研は「今後はパラミロン誘導体によるGLP1分泌促進の作用メカニズムの解明とパラミロンやその誘導体の構造の最適化を念頭に、大学などの研究機関や製薬企業を含めた新たな研究開発体制の構築に取り組む」といっている。