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細菌のオス殺しに抵抗する昆虫―進化的競争の直接証拠観察:琉球大学/千葉大学/農業・食品産業技術総合研究機構

(2018年4月17日発表)

 琉球大学と千葉大学、(国)農業・食品産業技術総合研究機構の研究チームは417日、ある細菌に感染するとオスだけが死んでメスの割合が極端に多くなる昆虫「カオマダラクサカゲロウ」がわずか5年でオスもその細菌感染に抵抗力を持って死なないように進化したことを観察したと発表した。昆虫集団の性比を操る細菌と、その宿主が “進化的軍拡競争” を演じる直接的な証拠を示す実証例は珍しく、世界でも二例目という。

 細菌のスピロプラズマは、メスのカオマダラクサカゲロウの卵細胞を介してその子どもに感染を広げていく。細菌にとってオスは感染を広げるのには役立たずのため、宿主となるカオマダラクサカゲロウ集団の中のオスは殺して「女社会」を作り上げ、効率よく宿主集団の中に感染を広げていくことが知られている。

 研究チームは2011年、千葉大学松戸キャンパス内でスピロプラズマに感染しているカオマダラクサカゲロウ集団を発見した。メスの74%が感染しており、集団中に占めるオスの割合はわずか11%だった。スピロプラズマの“オス殺し”によって女社会になっていたが、研究チームはこの集団がオス殺しに対する何らかの抵抗性を獲得すれば、それが爆発的に集団中に広まると、進化理論をもとに予測した。

 そこで5年後の2016年に、同じキャンパス内でカオマダラクサカゲロウ集団を再調査したところ、64%という高い割合でスピロプラズマに感染していた。ところが5年前とは異なり、すべてのメスがオスの子どもを産み、幼少期にオスだけが殺されるという“オス殺し”は起きなくなっていた。2011年にはたった11%しかいなかったオスが、2016年には38%にまで回復していた。

 この結果について、研究チームは「我々が思っている以上に、身近な自然環境においても常日頃から昆虫と細菌のあいだでドラマチックな進化的軍拡競争が生じていると考えられる」と話している。