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やる気が出ると目が覚める側坐核の働きを発見:筑波大学

(2017年9月29日発表)

 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構は929日、人がやる気を起こすことに関わる脳の側坐核のニューロンに、睡眠と覚醒をコントロールする働きのあることを発見したと発表した。やる気と覚醒を結びつける回路を初めて示した。中国の復旦大学、安徽医科大学とブリュッセル自由大学との共同研究の成果。

  人や動物の睡眠のメカニズムは、目を覚まし続けると睡眠不足が借金のようにたまるため、それを補おうとするリバウンド睡眠の働きと、体内時計によって昼間は目覚め、夜は眠くなるという日周的な働きとの生理的な働きでバランスを取っていると考えられている。

 その一方で気持ちが高ぶったり、ゲームや議論などに没頭したりしている時には眠気を忘れることが多く、逆に退屈な会議や授業では眠気を感じる経験は誰もが持っている。このやる気(モチベーション)の刺激による睡眠と覚醒のコントロールは、生理的な欲求とは別のものと考えられてきた。

 研究グループは、側坐核に多いアデノシン受容体に着目し、遺伝子改変マウスを使って側坐核の機能を解析した。アデノシンは睡眠作用のある脳内物質で、その受容体の働きを抑えると目覚める(覚醒)状態が続く。

 光刺激を与えて側坐核のニューロンを活性化したところ強い睡眠が生まれた。側坐核内のコアとシェルの2つの領域のうち、コア領域に睡眠を誘う機能があることが解剖で分かった。

 さらにニューロンの活動を抑えると睡眠量が大きく減少した。生理的な睡眠には側坐核のニューロンの活動が必要不可欠である。マウスを長時間覚醒させた後でニューロンの活動を抑えても変化はなかったが、大好物のチョコレートを与えた時や異性のマウスなどを近づけると、ニューロンの活動が低下し睡眠量が減少することが確かめられた。

 この結果からニューロンの活動は、睡眠と覚醒のコントロールに重要で、かつモチベーションに応じて調整されることも明らかになった。

 睡眠制御の新しいメカニズムが解明されれば、より安全な睡眠障害治療薬の開発につながる可能性があると見ている。