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細胞内の微小管解体の仕組み解明―がんや神経疾患の治療に新指針:東京大学/高エネルギー加速器研究機構

(2017年9月13日発表)

 東京大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)913日、細胞の形状保持や細胞分裂時に重要な役割を果たしている細胞内骨格「微小管」が、必要に応じて効率よく分解される仕組みを解明したと発表した。この仕組みに異常が生じると神経変性疾患やがんなどさまざまな病気につながるため、その治療法や医薬品開発の新たな指針になるという。

 東大の廣川信隆特任教授と小川覚之助教らが、高エネ研の西條慎也特任助教(研究当時)、清水伸隆准教授との共同研究で明らかにした。

 微小管はチューブリンと呼ばれるたんぱく質が集まった外径25nm(ナノメートル、1nm10億分の1m)程度の極微の管で、細胞の形状維持や細胞の運動に必要な力を発生させる。神経細胞の形成時や細胞の分裂時にはこの微小管が細胞内で秩序よく形成、解体されるが、その詳しい仕組みは未解明だった。

 研究グループは、微小管の解体時に「KIF2」と呼ばれるたんぱく質が働いて微小管の先端部から順番に効率よく解体されていくことに注目、その過程で起きる分子レベルの変化をX線結晶解析や質量分析法などで詳しく調べた。

 その結果、微小管の“解体屋”ともいえるKIF2が、微小管を構成するチューブリン2個と同時に結合し効率よく解体を進めていた。従来は1個のKIF2だけが結合でき、一度に微小管から取り外せるチューブリンは1個だけと考えられていたが、実際にはその2倍の働きをしていた。このためKIF2は、生体内のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)を半分しか使わずに効率よく微小管を解体する「省エネ解体モーター」であることがわかったという。

 さらに、微小管の末端部ではチューブリンが反り返った構造になっているが、KIF2はその形状に合うような表面構造を持っていた。そのために、2個のチューブリンに同時に結合でき、効率よく微小管を解体していることなど、詳しい仕組みも解明できた。

 今回の成果について、研究グループは「多くの微小管関連疾患の病態理解・治療法解明の基板になる」と話している。