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電圧で原子の形変え磁極制御―超省エネ磁気メモリー実現に道:大阪大学/東北大学/産業技術総合研究所ほか

(2017年6月23日発表)

 大阪大学、(国)産業技術総合研究所などの研究グループは623日、消費電力を大幅に削減できる超省エネ型磁気メモリーの実現につながる新原理を明らかにしたと発表した。電圧で電気的に原子の形を変えてナノメートル(1nm10億分の1m)単位の極微の磁石の向きを制御するという原理で、制御の効率を従来の10倍以上にできる。電圧方式はこれまで磁石の制御効率が悪いことが実用化の壁になっていた。

 研究グループには、阪大、産総研のほか高輝度光科学研究センター、東北大学、(国)物質・材料研究機構の研究者らが加わった。

 磁石のN極とS極 の向きで情報を記録する磁気メモリーは情報維持に電力を必要としない不揮発性メモリーとしてIT(情報技術)分野で欠かせない。その開発の一環として、電子が持つ極微の磁石としての性質「スピン」を利用する試みが進んでいる。

 研究グループは今回、鉄の一原子層とプラチナの一原子層を原子レベルで制御しながら何層にも重ね、非常にきれいな結晶構造を持つ鉄プラチナ人工磁石を作製。厚さ1000万分の5ミリ程度という非常に薄いこの試料に電圧をかけ、極微の磁石「スピン」がどのように変化するかを、放射光施設のX線による実験と理論計算によって詳しく分析した。

 その結果、電圧によって原子の電子数が増減するという従来から知られている電圧磁気効果のほかに、電圧によって原子の周りの電子分布が変わるという「原子の変形」が起きることを突き止めた。これら二つのメカニズムが存在していることによって、電圧でスピンの向きを変える制御効率を従来の10倍以上に高められる見通しを得た。

 電流を流して磁極の向きを変える従来の電流駆動型に比べ、今回のような電圧を利用する電圧駆動型はもともと消費電力が少なく省エネ型磁気メモリーが実現できるとされている。ただ、実用化するには磁極の向きを制御する効率が悪く、制御効率をこれまでの10倍以上に高めることが求められていた。

 研究グループは「将来的に今回の数値を大きく超える材料開発が可能であることがわかった」として、今後は新原理に基づく材料設計指針をもとに材料開発を進め、超省エネ不揮発性磁気メモリーの実用化を目指す。