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新型コロナウイルスの表面たんぱく質に発光作用―ウイルス感染の簡便、迅速な検出法の開発へ:産業技術総合研究所ほか

(2024年1月17日発表)

 (国)産業技術総合研究所と(国)理化学研究所の共同研究グループは1月17日、新型コロナウイルスの表面のスパイクたんぱく質がウミホタルの発光基質を光らせる現象を発見したと発表した。新型コロナウイルスの感染を簡便、迅速に検出する新たな手法の開発が期待されるという。

 スパイクたんぱく質は、ウイルス粒子の表面から突出している棍棒状のたんぱく質の突起。この部分が人体の細胞と結合して人体へのウイルスの侵入を引き起こす。

 産総研は先に、発光酵素として知られていないたんぱく質にも、特異な化学構造を持つ発光基質を発光させることがあることを世界に先駆けて見出した。たとえば、人血清アルブミン(HAS)たんぱく質はクラゲの発光基質の疑似化合物を発光させる。

 そこで、新型コロナウイルス感染の検出に発光現象を応用できるのではないかと考え、スパイクたんぱく質と発光反応を起こす発光基質の探索に取り組んだ。

 スパイクたんぱく質は発光酵素ではないので、スパイクたんぱく質の疑似発光活性を見出すことを目指し、36種類の発光基質との組み合わせによる発光測定を行った。

 その結果、スパイクたんぱく質はウミホタルに含まれる発光基質ウミホタルルシフェリンのみと発光反応を起こすことを見出した。唾液には様々なたんぱく質が含まれるが、ウミホタルルシフェリンはそれらのたんぱく質には反応しない。感染で唾液に混入したウイルスのスパイクたんぱく質には反応する。

 発光の強さはスパイクたんぱく質の量に依存し、1分間発光強度を測定するだけで唾液中のスパイクたんぱく質を定量することに成功した。

 新型コロナウイルスの感染診断では現在PCR法と抗原検査法が主に用いられている。ウイルスに特徴的な遺伝子を増幅して検出するPCR法は感度が高く確定診断に適しているが、検査に2時間ほどかかり、大量の検体を迅速に処理することは困難。ウイルスたんぱく質抗原を検出する抗原検査法は簡便で短時間ですむが、それでも10分以上要するため、さらなる簡便化・迅速化が求められていた。

 今回の成果により、PCR法や抗原検査法よりも簡便でかつ迅速な新型コロナウイルスの検出法の開発が期待できるという。