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肝がん再発予防へ―細胞増殖抑制の仕組み解明:理化学研究所/高エネルギー加速器研究機構

(2023年6月13日発表)

 (国)理化学研究所と高エネルギー加速器研究機構(KEK)は6月13日、根治治療後も再発率が80%に上るという肝臓がんの再発予防薬として期待される化学物質「非環式レチノイド」ががん細胞の増殖を抑える仕組みを突き止めたと発表した。がん細胞の増殖に必要な酵素たんぱく質に結合、その立体構造を変えて酵素の働きを抑制するという。増殖抑制の仕組みを分子レベルで明らかにしたことで、肝臓がんの再発予防だけでなく、さまざまな創薬研究に役立つと期待している。

 肝がんによる死亡者数は世界で83万人を超え、過去20年間で約2倍に増加している。これは根治治療後の再発を予防する方法が確立されておらず、再発率が極めて高いのが原因とされている。

 今回研究の対象にした非環式レチノイド(一般名:ペレチノイン)は1981年に岐阜大学の武藤泰敏教授(当時)が発表した物質で、肝がん細胞の異常増殖を選択的に抑制する世界初の肝がん再発予防薬として期待されている。ただ、この物質がどのようにしてがん細胞の増殖を抑制するのか、その詳しい仕組みは分かっていなかった。

 そこで研究グループは今回、異常増殖する細胞が発する増殖シグナルを非環式レチノイドが抑制する点に注目。その作用にどのようにかかわっているのか、特にどんなたんぱく質と結合してがん細胞の増殖を抑制しているのかを詳しく解析した。

 その結果、非環式レチノイドの特定の部位が細胞核にあるトランスグルタミナーゼ(TG2)という酵素に結合、その立体構造を変化させることでがん細胞の異常増殖を抑えていることが分かった。さらにこの酵素の働きを抑制するTG2阻害剤が、肝がん細胞の増殖を特異的に阻害することを見出した。

 がん細胞の増殖抑制を分子レベルで明らかにできたことで、「非環式レチノイドを構造基盤とした肝がん再発予防を含めたさまざまな創薬研究の足掛かりになる」と、研究グループは期待している。