花粉の正常な形成には花粉母細胞のペクチン量の調整が必須―スギやヒノキの花粉発生を抑え、農業の育種などに応用期待:筑波大学
(2023年4月25日発表)
筑波大学生命環境系の岩井 宏暁(いわい ひろあき)准教授の研究グループは4月25日、植物が花粉を作る際に花粉母細胞でペクチンの量が適切に保たれる必要があることを発見したと発表した。花粉症の原因となるスギやヒノキなどの花粉の生産を抑える道が開かれ、育種対策など農業分野にも役立つとみている。
花粉は花の雄しべにある葯(やく)の袋の中で作られる。風や昆虫などで運ばれて雌しべに受粉して種を作る。花粉のうの中には配偶子の元になる母細胞が入っている。
ペクチンは植物の細胞壁を構成する食物繊維で、食品の粘りを調整する効果があり、ジャムなどの生産に使われている。
研究グループは、ペクチンのメチル基を分解する酵素(PME)を過剰に発現させたイネを作り、野生のイネとの成長段階を比較した。酵素異常発現のイネは、酵素活性が5倍に増え、ペクチンのメチル化レベルは野生種と比べて30%以下に下がり、ペクチン量全体も約60%にまで減少していた。
その結果、酵素異常発現のイネは、花を咲かせる前の段階では正常に育ったものの、その後の段階では花粉を作る雄しべの葯の中に花粉がほとんど入っていなかった。
花粉の発生過程を詳しく観察すると、花粉母細胞が減数分裂して花粉四分子となり、これらが体細胞分裂して花粉が作られる。ところがPMEを過剰発現させたイネでは花粉母細胞の後期段階から細胞同士が異常にくっついたことから花粉四分子と花粉ができなかった。
ペクチンの分布を染色法で調べたところ、初期の花粉母細胞の細胞壁でペクチン量が維持できていないことが観察できた。
正常な細胞接着に必要なペクチン量が維持できないことから、異常に花粉母細胞同士が結合してしまい花粉作りを妨げていたとみている。
今後、ペクチンのメチル化の維持が、植物の生育にどのように重要な働きを持つかを明らかにしてことにしている。