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鍛えられたスプリンターの下肢は動かしにくいのか?―筋肥大化と下肢の回転のしにくさ、関連性認められず:筑波大学/早稲田大学

(2022年10月28日発表)

 筑波大学と早稲田大学の共同研究グループは10月28日、鍛えられた男性スプリンターの下肢は一般男性と比べて大きく発達しているにもかかわらず、両者における股関節まわりの「回転の動かしにくさ」に有意差はなく、筋量の分だけ男性スプリンターは素早い動きが可能となることが明らかになったと発表した。

 

 トレーニングにより鍛えられて筋が肥大すると、一般的には「重く動かしにくくなる」と認識され、アスリートの間にも一部こうした受け止め方がある。しかし、これを詳細に調べた研究はこれまでなく、力学的な動かしにくさについて、あるいは、股関節筋群の特異的な発達による走る速度の増大と、筋肥大化による動かしにくさとのバランスについては明らかでなかった。

 

 研究グループは今回、MRI画像を用いた独自の解析プロセスを開発し、下肢の組織を高い空間分解能で判別するとともに、股関節まわりの下肢の回転のしにくさ、すなわち、身長と身体質量で正規化された股関節まわりの下肢の慣性モーメントを主要評価項目として、男性スプリンターと一般成人男性の下肢の動きを比較した。

 その結果、身体質量に対する下肢の質量比は、スプリンターでは一般成人に比べて有意に大きいにもかかわらず、下肢の回転のしにくさ=動かしにくさに有意差が無いことが明らかになった。

 

 従来、「身体を鍛えすぎると重く動かしにくくなる」という認識があったが、今回の研究により、スプリンターのトレーニングにおいて「下肢が大きくなりすぎて動かしにくくなる」ということに特段の注意を払う必要が無いことが示唆されたとしている。