[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

研究者コーナー

014. 石油系に代わるアスファルト材料を探索
(土木研究所 先端材料資源研究センター 百武 壮さん)

(2026年7月15日)

 ホルムズ海峡の事実上封鎖は石油化学業界に深刻な打撃を与えた。地経学的要因以外にも、枯渇に向かう原油資源への懸念や、地球温暖化対策としてのカーボンニュートラルの流れなどがある。このためエネルギー・材料分野ではバイオ燃料およびバイオプラスチックへの転換や、ケミカルリサイクルによる石油製品の再資源化が課題。道路舗装に用いられるアスファルトでも同様に、植物由来やリサイクル材を活用した代替材料の開発が始まっている。


百武 壮(ひゃくたけ・つよし)さん

2008年3月早稲田大学 大学院 先進理工学研究科 応用化学専攻 博士課程修了(博士(工学))、2008年9月米ヒューストン大学 博士研究員、2009年4月独立行政法人 土木研究所 材料地盤研究グループ 研究員、2014年9月スペイン カタルーニャ化学研究所 在外派遣、2015年4月国立研究開発法人 土木研究所 先端材料資源研究センター 材料資源研究グループ 研究員、2016年4月同 主任研究員、2019年4月国立研究開発法人 土木研究所 企画部 研究企画課 副参事、2020年4月同 研究企画課長、2022年4月国立研究開発法人 土木研究所 先端材料資源研究センター 材料資源研究グループ 上席研究員(特命事項担当)、2025年4月より 同上席研究員(先端材料・高度化)

百武さん。電線の保護材やPETボトルなどの使用済みプラスチックを用いたアスファルトのサンプルを手にして

 

道路舗装の安定的な維持更新へ

図1. アスファルト舗装ができるまで

 石油を原料として作られるアスファルトは、粘着性・防水性・柔軟性があり、加熱時は流動し冷却時は固化する特性から加工が容易なため、道路舗装の主材として最適。施工にはアスファルトと砕石、砂利、石粉などの混合物(アスファルト合材)が用いられ、国内の一般道路のうち9割以上がアスファルト舗装とされる。
 しかし、国内の石油精製量は年々減少傾向にあり、それに伴いアスファルトの生産量も減少すると予想される。将来にわたって舗装の維持更新が安定的に続けられるよう、アスファルトに代わる材料の確保が急務となっている。
 またアスファルト舗装は、熱や紫外線の影響で経年劣化し、ひび割れや変形などを生じるため、10~20年ほどではがして回収し、添加剤を加えて再利用される。日本でのアスファルトのリサイクル率は99%以上(水平リサイクルおよび路盤材へのリサイクル)と極めて高いが、現在使われている添加剤のほとんどは石油系なので、これも代替材料に置き換える必要がある。

 

複数の民間企業と共同研究も

図2. 小瓶はアスファルト代替材料の一つで植物性の結合材。室温程度では流動せず形状を保つが、熱を加えると流動性を発揮する粘弾性体。既存のアスファルトプラントで骨材と練り混ぜることができ、アスファルトと同等の施工性が得られるように工夫されている。

 土木研究所では、新たなアスファルト代替材料および代替添加剤の探索のため、2022年から複数の民間企業と共同研究を始めた。
 「開発主体は企業や大学等の研究機関。土木研究所は業界の旗振り役兼レフェリーとして、各社の技術の長所や短所を客観的に判定し、優れた技術に対しては将来の社会実装を見据えて活用の促進を図る。」と、百武さんはそれぞれの立ち位置を説明する。
 「植物由来のもの(大豆、トウモロコシ、松脂、ナッツの殻、リグニンなど)や廃プラスチックを活用したものなど数々の代替材料が提案され、それらに対し基本性状や施工性、供給性などの観点から評価をしてきた。中にはアスファルトと同等の適用可能性が見出されたものも少なくない。」
 各社が開発した代替材料は、土木研本部内の舗装走行実験場に施工され、長期耐久性試験も進められている。GPS(全地球測位システム)を利用して重量16tの無人荷重車を4台同時に自動走行させ、1年間で幹線道路の4年分の交通量に相当する負荷をかけるという過酷な試験だ。

図3.(写真左)土木研究所つくば中央研究所にある舗装走行実験場。東京ドームと同程度の面積に、1周約600mの周回コースが設置されている。(写真右)無人荷重車4台を同時に自動走行する耐久試験の様子。

 

舗装リサイクルの高度化にも

図4. 再生アスファルトのAFM-IR画像分析の様子。

 再生アスファルトの品質向上のためには、劣化や再生のメカニズムを解明することも重要。百武さんらは原子間力顕微鏡と赤外分光を融合した観測技術「AFM-IR」を初めて土木分野に導入、アスファルト表面の微細構造や組成を ナノスケールで直接観測し、添加剤を加えた際のアスファルトの化学的変化や、添加剤の種類によって生じる品質の違いなども確認できた。
 「再生の過程が世界で初めて、実際の現象として視覚的に裏付けられた。この技術では微量試料を用い、非破壊かつ迅速に物性を把握できる。このため高品質な再生舗装材の開発が加速され、アスファルト舗装の長寿命化や高性能化、維持管理の効率化などが期待できる。」

 

機能材料を構造物点検に活用

 大学時代の百武さんの専門はポリマー(高分子材料)。発光などの機能を持たせたポリマーを、フィルムやコーティングなどの形で構造物の表面に貼付・塗布すれば、センサーとして使うことができる。これにより燃料電池の内部で酸素が消費される様子や、飛行機の翼に発生する空気の渦などを可視化してきた。
 そして土木研究所に入所してからも、これら機能材料(特別な機能を付加した材料)を始めとする応用化学で学んだ手法や考え方を、道路や橋、堤防といった構造物の維持管理に生かせないかと考えてきた。
「研究テーマの一つが、構造物にひずみやひび割れが生じたときに色、光、模様などの変化で危険を知らせてくれる技術。非接触・非破壊で二次元可視化できる、目視やカメラで十分な検出能を持つ、電源不要で災害時もすぐに使用可能などの利点がある。」
 この方向性は、百武さんが所属する先端材料資源研究センター(iMaRRC)のコンセプトとも一致していた。
 「高度化・多様化が進む材料資源分野において、外部の研究機関等と連携しながら研究開発を加速させ、土木構造物の効果的な維持更新や、低炭素循環型社会の構築に貢献することがiMaRRCの使命だ。」

図5. 機能材料を用いた構造物点検の一例、モアレ縞によるひび割れ幅計測
(図左)ひび割れによって格子幅が変化すると、重ねた格子から生成するモアレ縞にずれが生じる。 (図右)補修材下のひび割れ幅計測例。撮影写真を画像処理してモアレ縞を生成・計測した様子。(物質・材料研究機構との共同研究)

 

インフラの老朽化問題に挑戦

 土木研究所ではインフラの維持管理という具体的なターゲットが先にあり、そこへ向かって開発した技術をどう実用化し、広く普及させるかに重点を置いている。
 「近年、土木材料の劣化が構造物の安全性を脅かす問題も発生している。多くのインフラが老朽化に向かい、自然災害などの社会問題も深刻化している状況に対し、機能材料を武器として挑んでいきたい 。」
 今の人口減社会において、インフラは整備する段階からライフサイクルや維持管理を想定する時代に変化したという。しかも日本は地震や洪水などの自然災害が多く、高温多湿な気候条件も劣化を促進する大きな要因の一つ。このような厳しい環境で、簡易に既存インフラの性能評価と劣化検出ができる検査技術のニーズは高い。

 

【関連リンク】

国立研究開発法人 土木研究所

つくばちびっ子博士2026「国総研・土研 研究所大公開!!」7月31日(金)9:30-16:00(要事前予約)

池田 充雄(いけだ・みちお)
ライター、1962年生。つくば市内の研究機関を長年取材、一般人の視点に立った、読みやすく分かりやすいサイエンス記事を心掛けている。