[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

研究者コーナー

013. ロボットは現場で共に働く仲間(株式会社Doog 代表取締役社長 大島 章さん)

(2026年4月01日)

 高度に自動化され機械が効率的に稼働している工場でも、運搬作業はまだ人間が手作業で行っているケースは多く、課題となっている。運搬作業が自動化できない理由は、絶えず変化し続ける現場の状況に、従来型の単機能の運搬ロボットでは対応しきれないからだという。この問題に対し大島さんらが提供しているのが、作業者と一緒に成長し、現場の問題解決を手助けしてくれる仲間としてのロボットだ。「現場で使われて喜ばれるロボットを作って届けたい」との思いが原点となっている。

 


大島 章(おおしま・あきら)さん

プロフィール  1984年北海道札幌市生まれ。筑波大学を経て同大学院システム情報工学研究科を2009年3月に修了、日立製作所日立研究所に入社し、物流向けロボットや屋外交通移動ロボット、運転支援カメラシステムの研究に従事。2012年10月に退職し、同年11月26日にDoog(ドーグ)設立。つくば市に本社、土浦市に倉庫を置き、2017年にはシンガポール子会社を設立、現在15カ国以上に製品を展開している。

 

誰にでもすぐ使える移動型ロボット

図1. Doogが2012年に発表した追従型ロボット「カルガモ隊」

 大島さんは高校時代からロボット作りに興味を持ち、大学院在籍中の2007年に最初の追従ロボットを発表。これは複数台のロボットがカルガモの親子のように一列になり、人の後ろをついて歩くものだった。

 Doog(ドーグ)は移動型ロボットの量産メーカーで、代表的な製品に運搬用のTHOUZER(サウザー)がある。

図2.2015年発売の追従運搬ロボット(サウザー)

 2015年に発売したサウザーは、人や台車などの後を自動追従して物品を運ぶロボットで、製造業や物流倉庫をはじめ建設工事、整備場、発電・変電所、サービス業、農業など多様な現場に導入され、累計出荷台数は1,000台を超える。

 「サウザーが選ばれている理由は、操作が簡単で使い勝手が良いこと。ボタンひとつでレーザセンサが追従対象を認識し、自動追従が始まる。難しい設定やレクチャーも不要で、わずか数分で使い始められ、すぐに現場の運用に溶け込み、導入初日から生産性が向上する。」

 また自動走行機能では、床に貼った反射テープに沿って走る「ライントレース」と、センサで周りの風景を記憶してその通りに走る「メモリトレース」があり、現場の状況や用途に応じて使い分けられる。

 そのため建屋間や屋内外を連続走行でき、小さな段差や斜面も乗り越えられ、雨天時や夜間でも運用可能。現場を大がかりに改修する必要がなく、多種多様な場所をスムーズに走ることができるという。

図3. 空港、図書館、工場、倉庫、ホテルなどへのサウザーの導入例

 さらに、拡張性の高さも魅力だ。ベースユニットに周辺機器や追加機能を組み合わせ、その現場に最適な運搬ロボットへとカスタマイズできる。「現場の状況はそれぞれ異なるため、最初から仕様を固定するのは選択肢を狭めてしまい適切ではない。サウザーは必要最小限のシンプルな構成で導入し、カスタマイズを重ねながら最適化していける。その都度、専門家を呼んだり機体を買い直したりする必要もなく、目まぐるしく変化する事業環境に適応し続けられる。」

 

常識にとらわれない道を選択

 「Doogの軌跡は非常識の連続だった」と大島さんは振り返る。資金調達ではベンチャーキャピタルからの出資を受けず、金融機関からの運転資金融資にとどめ、都内へ本社を移さずつくばに根を下ろし、自社製造にこだわることでロボットメーカーとして独自の発展を遂げてきた。それが結果的に独創的な製品を生み、海外からも高い評価を受けている。」

図4. プログラムを送って動作を試すデスク横のデモ機

 Doog創業の理念は、世界中のさまざまな業界や現場で多くの人が手軽に使える汎用な移動ロボットを創り出すこと。そのためにはまず小さい市場を開拓し、顧客のニーズに合わせてソリューションを構築しながら徐々に市場を拡大していく必要がある。これは投資家がベンチャーに期待する成長イメージに合わないと大島さんは考えた。

 「ハードウェア事業の成長の難しさや、市場の成長スピードを読み違えないよう注意を払い、顧客や社内・社員に意識を向ける余裕も持ちながら、経営者が長期的な視点で意思決定ができる、堅実かつ持続可能な組織運営を心掛けてきた。」

 創業の地につくばを選んだのは、大島さんが学生時代を過ごした親しみ深い土地であることと、都会にはない牧歌的で落ち着いた職場環境も魅力だったが、それだけが要因ではなかった。

図5. スタッフの後をついて移動するサウザー

 つくば市では、市街地を移動ロボットが自律走行する公開実験「つくばチャレンジ」が2007年から毎年開催され、ロボット技術者らにとって交流と情報交換ができる唯一無二の場となっていた。また同市には世界初の生活支援ロボット安全検証センター(現・ロボット安全試験センター)が2010年に設立され、2011年には国

のモビリティロボット実験特区に認定されるなど、当時のロボット開発において台風の目となる場所でもあった。

 「実際のところ、弊社製品が使われる現場は日本の隅々であり世界の隅々であって、各現場のエンドユーザーが直接購入することも多い。このため都内の企画担当者にアピールする頻度は必ずしも高くなく、都内に拠点を置く必要性は感じられなかった。」

 

KAIZEN(カイゼン)を促すサウザーの真価

 サウザーの真価は運搬の自動化にとどまらない。操作が簡単で誰にでも扱え、高いカスタマイズ性で幅広い要求に応えられることから、使いこなすうちに現場の作業者にも自信や意欲が広がり、自ら主体的な業務改善に取り組み始める。
 「一人一人が感じた小さな違和感を基に日々の業務を見直し、現場の知恵と工夫で試行錯誤することで、社内のニーズや環境の変化に合った最適な解決策が導き出せる。ひいては周辺業務や生産プロセスの運用など全体のスムーズ化にも貢献し、その結果、社内改善や組織改革に挑む意識が自然に広がり、継続的な改善のサイクルが回り始め、組織自体が生まれ変わる。」
 サウザーの製品コンセプトは発売当初の「追従運搬ロボット」から、2020年に「協働運搬ロボット」になった。これは「さまざまな現場で人と機械が楽しく一緒に働く」というイメージに基づいたもの。そして2025年には「KAIZEN Mobile Robot(カイゼンモバイルロボット)」という新たな呼称も加わった。

図6.Doogの製品ラインナップ
図7.さまざまな機能と周辺機器で現場に対応

 「サウザーは変化を続ける社内環境に対応しながら、自分たちと共に進化し、一緒に問題を解決できる存在。それを伝えるには『カイゼン』という言葉が最も適している。この製品を使って、皆さんで主体的に楽しみながらカイゼンを進めてくださいという思いを込めている。」

 人の意志を尊重して従順に動作し、仕事を奪う敵ではなく、一緒に成長できる仲間として現場に受け入れられる。これこそが大島さんの考える、人々が使う道具として本当に役立つロボットだ。「信頼される道具を創ることで、人々に活力や笑顔を与える会社でありたい」とのビジョンを、これからも希求し続ける。

【関連リンク】

株式会社Doog

展示会情報:【2026/05/13-15】第2回関西ロボデックス(要来場登録(無料))

池田 充雄(いけだ・みちお)
ライター、1962年生。つくば市内の研究機関を長年取材、一般人の視点に立った、読みやすく分かりやすいサイエンス記事を心掛けている。