AIを使って洪水浸水域を推定
(2020年8月20日)
地球観測衛星の合成開口レーダーで観測した2018年の岡山県倉敷市の浸水データをAI学習し、翌年の福島県郡山市の水害による浸水範囲を推定したもの。国土地理院の調査結果と約8割が一致していた。(画像提供/東北大学)
Moya, L., Mas, E., & Koshimura, S. (2020). Learning from the 2018 Western Japan Heavy Rains to Detect Floods during the 2019 Hagibis Typhoon. Remote Sensing, 12(14), 2244. https://doi.org/10.3390/rs12142244
過去の水害のデータをAIによって学習し、新たに発生した水害地域の浸水範囲を推定するアルゴリズムが構築されました。
東北大学災害科学国際研究所エリック・マス准教授・越村俊一教授・ペルー国立工科大学ルイス・モヤ研究員らの研究グループは、2018年に発生した西日本豪雨による岡山県倉敷市真備町の水害データを機械学習させることによって、浸水地域推定アルゴリズム開発。これを、2019年の台風19号による福島県郡山市の水害に適用して、浸水域を推定しました。その結果、浸水域は国土地理院が調査したものとほぼ一致しており、約8割の精度で推定できることが確認されました。
浸水域の推定には、欧州連合(EU)と欧州宇宙機関(ESA)の地球観測衛星センチネル1の合成開口レーダー(SAR)の観測データが用いられました。合成開口レーダーとは衛星から地表に向けてマイクロ波の電波を照射し、地表の状態を高い解像度で読み取るものです。
照射したマイクロ波が地上の土壌や物体などに当たって反射するときの散乱の特徴から、浸水のあるなしや浸水の高さを判断します。研究グループは、得られたデータをパターン認識を行う機械学習モデル「サポートベクターマシン」に学習させることで、浸水範囲を推定するアルゴリズムを開発しました。
このアルゴリズムを用いると、過去の水害データを蓄積しAIに学習させることで、将来、別の場所で発生する水害の被害範囲を素早く推定できる画像解析アルゴリズムが構築できます。これは、迅速な人命救助や適切な避難を行う際に役立つと考えられます。
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記事執筆:白鳥敬