気象衛星による熱帯雨林観測の精度を向上させる新手法を考案
(2026年2月15日)
東南アジアに広がる熱帯雨林は、そこに生息する野生動物にとって大切な生息地であるだけでなく、自生する樹木が大気中の二酸化炭素を吸収することにより、世界規模の炭素循環を支えています。しかし、近年、急速に森林面積が減少しており、森林に蓄積していた炭素を大気中に放出してしまうと、地球温暖化を加速させかねません。そのため人工衛星を用いた、軌道上からの観測が行われるようになっており、日本が運用する人工衛星「ひまわり8号」、「ひまわり9号」も利用されています。
ひまわり8号、9号は高度約3万6,000kmの静止軌道上から観測する気象衛星で、同時に広い範囲を観測することができます。さらに10分間隔という高頻度の観測が可能で、雲が発生しやすい熱帯雨林の観測に適していると考えられていますが、ひまわり8号、ひまわり9号にも課題はあります。
人工衛星による森林のモニタリングは、地表に降り注いだ太陽光のうちで、赤色光が最も植物に吸収される一方、近赤外光が吸収されずに反射される特徴を利用して、植物の葉の量や光合成の活発さを示す植生指数を割り出します。ただし、気象衛星が地表を観測する角度が固定されているのに対して、地表に射し込む光の角度は季節、時間によって変化し、衛星・地表・太陽の位置関係により、観測条件にばらつきが生じてしまいます。
そこで千葉大学、東京大学、愛知県立大学、大阪公立大学の研究グループは、観測条件のばらつきをなくし、気象衛星の観測データを最適化する新手法「S-CSA(空間的統一散乱角)を考案しました。この手法では、季節や時間によって太陽光の入射角が変化しても、気象衛星が同じ角度で観測できる条件(S-CSA条件)の観測データから植生指数を得ようとします(図の左側)。研究グループが東南アジア全域において、衛星・地表・太陽の相対的な位置関係が一定になるS-CSA条件を調べたところ、年間を通じて存在することが分かりました。

このS-CSA条件を満たす観測データを選んで解析した結果と、異なる複数の条件の観測データの解析結果を比較した結果、S-CSA条件で得た植生指数が地上で観測した光合成による二酸化炭素吸収量と最も高い相関を示し、季節変動を最も正確に捉えられました。さらに地域ごとの植生指数の偏りや、データにあらわれる不自然なパターンが抑えられ、一貫した植生モニタリングが可能になりました(図の右側)。
今後、気象衛星によるモニタリングにS-CSAを取り入れることで、東南アジア熱帯雨林の植生を正確に把握できるようになるでしょう。さらにS-CSAには他国の気象衛星にも応用できる汎用性があることから、ひまわり8号、9号では観測ができない南米大陸、アフリカ大陸の熱帯地域の植生モニタリングの向上にも貢献できると期待されます。
【参考】
■千葉大学プレスリリース
静止気象衛星「ひまわり」で熱帯雨林での“健康診断” —新手法で精度の高い観測が可能に—
■『Environmental Research Letters』に掲載された論文
Exploring the optimal geometry of satellites Himawari-8/9 to monitor seasonal variation in vegetation dynamics across Southeast Asia

斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。

