外来カエルの定着を防ぐために鳴き声を検出するAIを開発
(2025年4月15日)
人間の活動に伴(ともな)って本来の分布外から持ち込まれた外来種(がいらいしゅ)は、元々いる在来種(ざいらいしゅ)の生息に深刻な影響を及ぼすことがあります。そのため外来種が持ち込まれることがあっても、数が増える前に駆除することが求められますが、人間の力だけで迅速に外来種を見つけ、完璧に駆除し続けることは簡単ではありません。京都大学の研究グループは、沖縄県の西表島での利用を目指し、外来種のカエル類を検出する人工知能(AI)の開発に取り組みました。
絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)に指定されているイリオモテヤマネコをはじめ、西表島(いりおもてじま)には貴重な動植物が生息していて、世界自然遺産にも登録されています。しかし、30kmほどしか離れていない石垣島(いしがきじま)には南米原産のオオヒキガエル、東南アジア原産のシロアゴガエルが定着しており、両島を行き来する貨物に紛(まぎ)れたのか、過去10回以上、西表島に侵入したことが確認されています(図1)。

発見次第、駆除(くじょ)することで今のところ西表島での定着は認められていないものの、巡視員が広い島内を隈(くま)なく見て回ることは難しく、外来カエルを見つけ出す技術が求められてきました。その点、カエルは繁殖期にオスが盛んに鳴くため、鳴き声で検出できるAIがあれば、外来カエルの定着を防ぐのに役立てられるでしょう。
そこで研究グループは石垣島と西表島の6地点で、約1年間に渡って野外録音を行いました。得られた音源を利用して190分間の鳴き声データを作成し、鳥類の研究に用いられてきたBirdNETという深層学習モデルの訓練を行いました。そして西表島に設置したスピーカーから外来カエルの鳴き声を流し、他のカエルや虫の鳴き声、風の音といった雑音に紛れた中でもAIが外来カエルの鳴き声を検出できるかどうかを調べました。
その結果、スピーカーで鳴き声を流した日は、高い精度で外来カエルの鳴き声を検出できました。鳴き声の音程がシロアゴガエルのよく似た、在来種のヤエヤマヒメアマガエルが盛んに鳴いた夜だけは、ヤエヤマヒメアマガエルの鳴き声にかき消されて、シロアゴガエルの鳴き声を検出することはできませんでした(図2)。

石垣島での1年間の野外録音を通じて、外来カエル2種の繁殖期が明らかになっています。シロアゴガエルが2月から11月にかけて鳴くのに対して、オオヒキガエルは特定の季節に限って鳴くことはなく、シロアゴガエルの鳴き声がヤエヤマヒメアマガエルの鳴き声にかき消されてしまう可能性も踏まえ、それぞれの繁殖期を留意して開発されたAIを活用すれば、外来カエルのパトロールを行う際の助けになると期待されています。
【参考】
■京都大学プレスリリース
AIによる外来カエル類の自動検出法の開発―世界自然遺産・西表島への定着を防ぐために―

斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。