二酸化炭素を吸収して性質が変化するゴムを開発
(2025年12月15日)
二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの大気中濃度を高めた結果、地球温暖化が大きな問題になっています。今以上、温暖化を進行させないためには、大気中の温室効果ガスを増やさないことが必要で、二酸化炭素の排出抑制が求められています。
しかし、石油や天然ガスといった化石燃料の消費を基盤に、現在の便利な生活が成り立っている以上、二酸化炭素の排出を完全にゼロにするのは困難です。そこで排出抑制に留まらず、大気中から二酸化炭素を回収し、貯蔵する、より積極的な取り組みも進められていますが、加えて二酸化炭素を資源として活用することも検討されるようになっています。
岐阜大学工学部の三輪 洋平 教授らの研究グループは、これまで二酸化炭素と反応して性質が変化する高分子材料の開発を進めてきました。そして、この程、横浜国立大学、信州大学、名古屋市立大学との共同研究で、二酸化炭素を吸収することで柔軟性が変化するエストラマーを開発したと発表しました。
エストラマーは高分子の一種で、一般的にはゴムと呼ばれています。開発されたエストラマーはポリエチレンイミン(PEI)とポリジメチルシロキサン(PDMS)と呼ばれる高分子からなり、二酸化炭素を含む前は輪ゴムのような柔軟性を持っています。ところが、二酸化炭素を吸収すると、1,000倍以上も硬化し、アクリル板ほどの硬さに変化します。ただし、熱を加えてエストラマーから二酸化炭素を除去すると、元の柔らかい状態に戻ることが確かめられています。
エストラマー表面の粘着性も二酸化炭素の有無によって大きく変化させることができるため、例えば、床のコーティング剤として利用すれば、普段は滑り止め効果を持たせつつ、清掃時には潤滑性を高めて楽に掃除ができるようになると期待されています。また、吸収できる二酸化炭素の量は、エストラマー1g当たり220mgにもなり、大気中から回収した二酸化炭素の吸蔵剤としての利用できるでしょう。
さらに二酸化炭素の有無により、蛍光特性が増大することも明らかになっています。蛍光特性とは、特定の波長の光を照射すると、すぐに別の波長の光を発する特徴のことを指し、二酸化炭素の吸収を部分的に遮ることもできることから、このエストラマーは情報記録材料として利用することもできるのではないか、と研究グループは提案しています。

(画像:Miwa, Y. et al. Nat Commun 16, 9582 (2025).)
【参考】
■岐阜大学プレスリリース
CO₂を吸収してプラスチックに変わるゴムを発明
■Nature Communicationsに掲載された論文
CO2-triggered reversible transformation of soft elastomers into rigid and highly fluorescent plastics

斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。

