[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

漁船の遭難事故をもたらした突風の正体を解明―スパコン「京」で、複数の竜巻状の渦の発生を確認:東京大学/気象研究所

(2019年4月8日発表)

 東京大学大気海洋研究所と気象庁気象研究所は4月8日、対馬海峡で2015年に発生し漁船が転覆した突風をスーパーコンピューター「京」で再現したところ、複数の竜巻状の渦が連続発生した可能性があると発表した。同様の渦巻きは過去に少なくとも3例発生し、漁船の被害も出していることから、将来の海上交通の脅威となる新タイプの突風予報に役立つものとみている。

 突風は2015年9月1日午前3時から4時にかけて対馬海峡の海上で発生し、これが原因で漁船5隻が転覆し、5人が死亡した。

 当時、突風が発生した付近には対流を伴う直径30km程度の「メソβ(ベータ)スケール渦(メソβ渦)」があり、これが突風を引き起こしたと考えられている。しかし突風がメソβ渦内のどんな現象で引き起こされたのかが不明だった。

 気象現象は空間スケールの大きさで3つに分類しており、メソβスケール渦は中間規模の20kmから200kmの規模で起きた海陸風などの局地風を指す。

 気象庁福岡管区気象台のレーダーによって、らせん状の降水分布を伴う直径30km程度の渦が観測されていたが、レ―ダーの解像度が粗いため詳細な構造や突風の現象解明にはつながらなかった。

 そこでスパコン「京」で高解像度数値シミュレーションを実施し、メソβ渦の詳細な構造と発生、発達過程、および突風を起こした現象を解析した。

 その結果、メソβ渦の中心の西側では、直径が1km以下の「竜巻状の渦」が次々と発生し、発達を繰り返していることが見られた。この時の風速は最大で秒速50mを超えており、漁船を転覆させたものと考えられる。

 メソβ渦は水平方向の風向、風速の変化が大きな場所で起きやすく、不安定で大気中の渦や波動を発生させる。海面付近で最も回転が大きく、類似のスケールの渦とは違う新しいタイプであることも明らかになった。メソβ渦と考えられる過去の事例はこれまでに3例(2011年8月、2016年9月と10月)が見つかっている。

 今後はメソβ渦の解析を増やすことで、年間に何個発生し、どの季節に起きやすいかなどの気象学的な特徴を把握し、発生しやすい環境を明らかにすることで気象予報や防災に役立てることにしている。