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心臓移植に代わる新たな心臓再生法を発見―非ステロイド性抗炎症薬が心筋誘導を促進:筑波大学ほか

(2019年2月19日発表)

 筑波大学医学医療系の家田真樹教授らのグループは219日、心臓移植以外には従来助からなかった重い疾患の心臓を再生する手法を発見し、心臓移植あるいはiPS細胞による心筋細胞移植に代わる新たな心臓再生法を確立したと発表した。小児や成人の心疾患の再生医療実現が期待されるとしている。

 新再生法を見出した家田教授らは、10年ほど前に心臓の線維芽細胞から、再生に必要な心筋細胞を直接作りだせることを見出し、その後、心筋梗塞で線維化したマウスの心臓を再生したり、ヒトの線維芽細胞から心筋細胞を誘導し作製したりした。

 しかし、これまでの心筋細胞直接誘導法は胎児期の線維芽細胞だと高効率ではあるが、臨床で必要な小児期及び成体期の線維芽細胞では効率が低いという課題があった。

 家田教授らは今回、化合物ライブラリーを用いてマウス新生児期及び成体期線維芽細胞で心筋誘導を促進する化合物を網羅的に探索した。その結果、4種の化合物が浮上、なかでも日常臨床で汎用されている非ステロイド性抗炎症薬のジクロフェナク(商品名ボルタレン)に顕著な効果があることを見出した。

 このジクロフェナクを投与すると心筋に特異的な遺伝子やたんぱく質の発現が増え、自律的拍動をする心筋細胞数の作製増加が認められた。

 次に、加齢や老化が心筋誘導を阻害しているメカニズムを調べたところ、加齢や老化に伴って線維芽細胞では炎症と線維化関連遺伝子の発現が上昇することが判明、ジクロフェナクは炎症や線維化関連遺伝子の発現を阻害することで心筋誘導を促進することをつかんだ。

 つまり、加齢老化とともに増強される炎症及び線維化が心筋誘導を阻害していること、非ステロイド性抗炎症薬ジクロフェナクによりこの経路を抑制することで心筋誘導が改善することが分かった。これら一連の成果により、ジクロフェナクによる安全・簡便・効率的な心筋誘導法を確立することができたという。

 心臓移植はドナー不足の問題が、またiPS細胞による再生法は工程が複雑でコストがかかり、iPS混入による腫瘍形成のリスクがある、移植心筋の長期生着が困難、などの課題がある。今回開発した手法にはこうした問題がなく、心臓再生医療の実現が期待されるとしている。