[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

ここに注目!

IoTとCPSとREALITY 2.0

(2017年10月15日)

図1  IoT(Internet of Things)の概念図

1.IoTとCPSってなんでしょう?
 
IoT(Internet of Things)という言葉をご存知でしょうか。
最近は、専門誌だけでなく夕方のニュース番組でも取り上げられることもあり、一度は耳にされた方も多いかもしれません。電子機器や自動車などモノの状況をセンサーで測り、インターネットを介してデータを集約、分析し、その結果を基にモノやそれらを含むシステムの最適化を図ろうという技術です。
 では、CPS(Cyber-Physical Systems)はどうでしょうか。こちらはまだそれほど一般的ではないようですが、米国で2000年代から本格的議論が始まったもので、物理的プロセスと相互作用して、物理的システムに新しい機能を追加するシステム1)と言われます。
 この二つはそもそもの意味は異なるのですが、今日では似た概念として用いられています。
 これらの具体的な応用例としては、航空機エンジンの稼動データの分析に基づいて、最適な運行や機体の点検をできるようにしたり、建物の気温や明るさのデータから省エネで快適な空間づくりをしたり、携帯機器やウェアラブル端末のデータをヘルスケアに役立てたりと、既に様々な分野で取組みが始まっており、応用範囲は拡大しています。


2.CRDSが提案する「 REALITY 2.0(リアリティ2.0)」2)とは?

 IoTやCPSといった技術が社会に浸透した先には、人やサービスなど物理世界にある実体がサイバー空間と融合一体化して機能する世界が現れると予測されており、筆者が所属するCRDSではこの世界をREALITY2.0と呼んでいます。REALITY 2.0の世界では、社会に存在するモノや人、サービスの機能が一つの部品(コンポーネント)として存在し、必要な時にネットワークを介して機能を呼び出し、それらを即座に組み合わせて、新しいサービスやビジネスを作る事ができるようになります。
 例えば、電車、バス、タクシー、カーシェアなどを組み合わせ、個人の目的、好みや地域に合わせた最適な交通システムを構築できます。また、医療機関や介護事業者、医師や保健師等を組み合わせ、個人に最適な医療サービスを提供する事ができます。さらに、災害等緊急時には交通や医療システム、防犯システム等を即時に組み合わせて、防災・減災システムの構築も可能になります。

図2 REALITY 2.0のイメージ 部品化(コンポーネント化)された機能が、サービスプラットフォームから実体定義レンズ(ソフトウエア)によって、呼び出され、組み合わされて、新たなサービスが構築される。


3.超スマート社会の実現(Society5.0)のために

 政府は、国の目標として超スマート社会の実現(Society5.0)を掲げています。超スマート社会の定義は次のとおりです3)
「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」 
 この超スマート社会を実現する手段の一つが、REALITY 2.0であると考えています。ただし、こうした新しい考えを実現させるためには、技術的・制度的な課題があります。
 技術的には、人やモノの動きを把握するセンシングとそれらに働きかけるアクチュエーションの技術、機能を呼び出し組み合わせが可能な形にするソフトウエア技術、機能の組み合わせを行う場(プラットフォーム)の構築技術などの課題があります。
 制度的な課題には、企業や個人の持つデータをどのようなルールで他者に提供するかといったデータの取り扱いの問題、サービスの構築を促しつつ信頼性を担保できるような規制・制度の問題、機能の利用者と提供者にどう価値を分配するかといった価値の再配分の問題(お金の分配方法等)などが挙げられます。
 こうした課題の解決に向けては、政府や企業、大学で取り組みが進められています。
一方で、上で挙げたような制度的な課題については、社会に暮らす私たち一人一人も、どういった社会にしていきたいのかも含めて考えていけるとよいと思います。
 それによって、より良い形での未来の世界が実現するのではないでしょうか。

 

【参考文献】
1) Cyber‐Physical Systems Executive Summary
http://iccps.acm.org/2011/_doc/CPS-Executive-Summary.pdf
2) JST CRDS研究開発の俯瞰報告書「システム・情報科学技術分野(2017年)3.2 CPS/IoT/REALITY2.0」
http://www.jst.go.jp/crds/pdf/2016/FR/CRDS-FY2016-FR-04/CRDS-FY2016-FR-04_07.pdf
3) 第5期科学技術基本計画
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/5honbun.pdf

 

科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)
システム・情報科学技術ユニット フェロー
山田 直史

山田直史(やまだ なおふみ)
 2009年埼玉大学大学院理工学研究科卒。同年科学技術振興機構入構。
論文データベース等のシステム運用業務等に従事。
2012年文部科学省に出向。2014年科学技術振興機構に復職し研究開発戦略センターに配属。
2015年より、同センターのシステム・情報科学技術ユニットにて研究開発戦略に関する調査、提言策定業務に従事。