(独)森林総合研究所と(独)日本原子力研究開発機構は10月21日、「アジアフラックスネットワーク」の観測地の一つである安比(あっぴ)森林気象試験地(岩手)で、土壌中の有機炭素(炭素を含む有機化合物)に含まれる放射性炭素の割合(同位体比)から冷温帯ブナ林土壌の炭素貯留能力を推定したところ、地球温暖化により土壌有機物からの炭素消失が促進される可能性のあることが判明したと発表した。
アジアフラックスネットワークは、アジアの陸域生態系(森林、草原、農耕地など)と大気の間で交換されるCO2、水蒸気、熱量などを長期にわたってモニタリングすることを目的に設立された観測ネットワークのこと。
この研究では、土壌有機物の中に、宇宙線を起源とする放射性炭素と近年(1960年代)の核実験を起源とする放射性炭素が存在することに着目した。土壌中の安定炭素に対する放射性炭素の存在比(放射性炭素同位体比)の変化は、炭素が土壌に蓄積されてからの経過時間を反映し、宇宙線起源の放射性炭素同位体比は数百~数千年の、また核実験起源の放射性炭素同位体比は数~百年程度の滞留時間の推定にそれぞれ利用できる。
安比森林気象試験地の冷温帯ブナ林の土壌を化学処理し、原子力機構青森研究開発センターの加速器質量分析装置で放射性炭素同位体比を測定したところ、冷温帯ブナ林の土壌が、様々な炭素貯留能力を持つ有機物の複合体であることが分かった。
さらに、各複合体が温度変化によって受ける影響の予測から、21世紀末までの地球温暖化の進行に伴い、全土壌有機炭素の約50%を占める滞留時間が数十~二百年程度の土壌有機物からの炭素消失が促進され、CO2放出量が増大する可能性を明らかにした。
この研究の成果は、土壌中での滞留時間が数十~二百年程度の有機炭素の蓄積量を地球規模で算定すれば、将来の地球温暖化による土壌の影響の規模と時期をより正確に予測できることを示唆している。
No.2008-41
2008年10月20日~2008年10月26日