(独)農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)動物衛生研究所は7月18日、鹿児島大学との共同研究で、マダニの腸で作られるタンパク分解酵素の一種「コンギパイン」が、マダニが媒介する病原体の増殖を抑制していることを世界で初めて明らかにしたと発表した。
我が国に広く生息しているフタトゲチマダニ(マダニ)は、ウシやウマ、イヌなどの動物にバベシア症(ヒトのマラリアに似た疾患)の病原体を媒介することで知られているが、有効な治療薬はまだ開発されていない。
病気の原因となるバベシア原虫(病原体)は、動物の赤血球の中に寄生している。動物についたマダニが吸血すると、赤血球はマダニの中腸内腔(ヒトの腸に相当)に取り込まれて消化され、バベシア原虫が中腸上皮細胞を破ってマダニの体内に入る。
研究グループは、マダニの吸血メカニズムを調べたところ、動物から吸血したヘモグロビンを栄養源として分解する際に、マダニの中腸に存在するロンギパインという酵素が、タンパク分解酵素の役目をしていることを見つけた。
人工的に培養したバベシア原虫を利用して、ロンギパインの影響を調べる実験を行った。その結果、ロンギパインがバベシア原虫を死滅させる働きをしていることを確認した。赤血球への影響はなかった。
また、遺伝子操作によって、ロンギパインを産出できないマダニを作り出し、バベシア原虫に感染したイヌに付着・吸血させてみた。その結果、マダニの中腸ではバベシア原虫が増加していることが確認された。
マダニの体内における病原体介在の仕組みを、分子レベルで解明したのは世界で初めて。今回の研究成果は、巧妙な生物機能をうまく利用すれば、マダニ媒介感染症に有効な画期的な制御手段をとれる可能性があることを示している。
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