高エネルギー加速器研究機構(KEK)と(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)の共同組織のJ-PARCセンターは3月31日、来年4月開始予定のニュートリノ振動実験「T2K実験」で使う前置検出器用電磁石の第1便がスイスのCERN(欧州合同原子核研究機構)から常陸那珂港(茨城)に到着、3月28日に東海村(同)のJAEA原子力科学研究所内の「J-PARC(大強度陽子加速器施設)」に搬入したと発表した。今後、コイルなどの部品を順次受け入れ、6月30日までに電磁石として組み上げ、その後、前置検出器を置く縦坑に据付ける。
T2K実験では、J-PARCの500億電子ボルトまで加速出来るシンクロトロン(円形加速器)で加速した陽子(イオン化した水素)のビームを炭素の標的に照射、発生したニュートリノ(素粒子の一種)のビームを西に295km離れた飛騨市(岐阜)・神岡鉱山跡の地下1000mに設置した東京大学宇宙線研究所の「スーパーカミオカンデ」と呼ばれているニュートリノ検出装置に向けて打ち出し、ニュートリノが飛行中に別の種類のニュートリノに変わる「ニュートリノ振動」という現象を調べる。このスーパーカミオカンデに向けて飛ばすニュートリノの強度、エネルギーなどを調べるのが前置検出器の役目。
1999年から2004年まで、KEKが狙いは同じ実験(K2K実験)を行っているが、今度のT2K実験では、打ち出すニュートリノが毎秒約1000兆個にもなる。これは、K2K実験の約100倍。この世界最強のニュートリノビームを使い、打ち出された「ミューニュートリノ」からの「電子ニュートリノ」の出現という未発見の現象を探す。発見されれば、これまで質量ゼロとされていたニュートリノに質量がある確証になる。
このようにニュートリノ振動現象を詳しく調べることは、物質の起源解明や宇宙創生の謎に迫ることにつながる。このため、T2K実験は、世界12ヶ国、61機関、約400人の研究者が参加する国際共同実験として、CERNの電磁石ばかりでなく、実験参加各国グループが前置検出器を構成する幾つかの測定器を自国で製作、J-PARCに搬入する。
今度、J-PARCで再使用する電磁石は、1999年まで、CERNのニュートリノ実験に使われ、その実験にあたった2人の科学者がノーベル物理学賞を受賞している。
No.2008-13
2008年3月31日~2008年4月6日