網膜内で光により形を変える「レチナール」分子1個の観察に成功
:産業技術総合研究所/科学技術振興機構

 (独)産業技術総合研究所と(独)科学技術振興機構は6月29日、目の網膜内で光を感じて形を変える「レチナール」という分子1個の動的観察に成功したと発表した。
 最近の分子生物学では、単一分子(分子1個)を直接観察する単分子イメージング技術の需要が急速に高まっているが、レチナール分子などの構造変化の観察は、高い空間分解能(電子顕微鏡の解像度)と観察精度が要求されるためこれまで実現されていなかった。
 レチナール分子は、網膜の視細胞ロドプシン(光受容膜タンパク質)内にあって、構造上「く」の字のように折れ曲がっている「シス形」と真っすぐに伸びた「トランス形」があり、光を受けるとシス形からトランス形に構造が変わる。
 共同研究チームは、レチナール分子をフラーレン(炭素原子でできた籠(かご)状の分子)と結合させ、それをカーボンナノチューブ内に閉じ込めることで、電子顕微鏡で単一分子を直接観察する方法を考案した。また、電子顕微鏡の解像度を、磁界レンズの球面収差補正技術の導入により0.14nm(ナノメートル。1nmは10億分の1m)まで向上させた。その結果、単分子の構造変化を直接観察することに成功した。
 単分子レベルで、レチナール分子のシス形とトランス形を識別したのは世界で初めてのことで、動画では観察中に刻々と構造を変えるレチナール分子の像が見られる。
 生体分子をカーボンナノチューブに閉じ込めて観察する手法は、生体機能を原子・分子レベルで解明する新しい手段で、今後幅広い応用が期待される。

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