筑波大学は5月11日、水と油のように混じり合いにくい有機ポリマー同士が均一にブレンドしたマイクロメートルサイズの微細な球体の作製に成功したと発表した。
ドイツのデュースブルグエッセン大学、大阪大学、物質・材料研究機構との共同研究の成果で、光エネルギーの捕集や光回路などへの応用が期待される。
光エネルギーの捕集、輸送、変換は、光合成や光の持つ情報を電気信号に変える光電変換デバイスで重要で、有機ポリマー材料で高効率な光エネルギー移動を起こすためにはエネルギー供与性(ドナー)分子と受容性(アクセプター)分子とが分離せずに均質に混じり合い、両方の分子を約10nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)以内の距離にする必要があるといわれている。
その有機光電子デバイスには、「共役ポリマー」と呼ばれる高分子材料が良く使われる。
共役ポリマーは、導電性や発光、光吸収など様々な機能を持ち、2000年にノーベル化学賞を受賞した筑波大名誉教授の白川英樹博士は共役系高分子液晶を作ったことで知られる。
しかし、異なる共役ポリマーは、混じり合いにくく、混ぜても放置すると互いに分離してしまう性質があり、効率的な光エネルギー移動を実現するにはドナー分子とアクセプター分子の働きをする両共役ポリマーを均質に混じり合わせる技術の開発がいる。
研究グループは、互いに混じり合いにくい複数の共役ポリマーにある種の溶媒をゆっくり加えていくと各ポリマーが均質にブレンドすることを見つけ、形状の整ったマイクロメートルサイズ(1マイクロメートルは100万分の1m)の微細な球体を得る手法を確立した。
当初は、蛍光を発する収率(蛍光量子収率)が2%以下と低く、効率面で大きな課題があったが、フルオレン系とカルバゾール系の共役ポリマーをマイクロ球体のドナー分子とアクセプター分子に使って蛍光量子収率を22.5%にまで高め、光を閉じ込めて特定の波長を共鳴・増強させるマイクロメートルサイズの球体光共振器を開発した。
得られたマイクロ球体1粒子の蛍光スペクトルを測定した結果、いずれの球体でも特定の波長の光が生じる発光(WGM発光)が観測されたという。
さらに、ポリマー球体内部において100%近いエネルギー移動が計測され、3つのポリマー球体を連結しても球体間の光伝搬が起こることを確認している。