東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の平田秋彦准教授と陳明偉教授らの研究グループは(国)物質・材料研究機構(NIMS)の小原真司主幹研究員、(株)日産アークデバイス機能解析部今井英人部長の研究グループ、(国)科学技術振興機構(JST)及び(公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)と共同で非晶質(アモルファス)な一酸化シリコン(SiO)の構造解明に世界で初めて成功した、と発表した。
結晶の様に規則正しく並んでないアモルファスな一酸化シリコンの構造に関する研究は100年以上の歴史があるが、構造の観点から、①一酸化シリコン均一構造説②シリコンと二酸化シリコンの混合物とする不均一説③不均一な混合物だがシリコンと二酸化シリコン以外の構造も含む、という3つの説があった。だが、これら仮説を確かめるための実験や計算機シュミレーションが困難だったので、議論に決着がしていなかった。
今回、AIMRの研究グル-プはNIMS、(株)日産アーク、JST、JASRIと共同で「オングストローム(100億分の1m)波長のビーム電子回析」と「放射光高エネルギーX線散乱」という二つの実験データを同時に計算機シミュレーションに反映させるのに成功。長い間議論されてきたアモルファスなSiOの信頼性高い構造モデルを見出した。答えは仮説③の「シリコンと二酸化シリコン以外の構造も含む不均一混合物」だった。
今回の研究でアモルファスSiOはSiとSiO2の他に3種類の構造が混ざった複雑な状態として安定に存在することが分かった。例えて言うなら、森に異なった何種かの木が集団を作って生えていたのを、オングストロームビーム電子回析でそれぞれの木の集団とその境界領域を観察、放射光高エネルギーX線散乱でこれらの木集団が並んでいる森全体を観測したことになる。本研究では更に、互いに異なった木の集団と集団の間に両方の木と異なる種類の木の存在も発見。それらをスーパーコンピューターによる計算機シュミレーションで可視化したのである。
高容量リチウムイオン二次電池の電極材料として注目されているアモルファスSiOの今回の構造解明で電池充放電機構解明が更に前進、新規電極材料開発が進展すると期待される。今回の手法は他の不均一なアモルファス酸化物や酸化物ガラスの構造解明にも応用できるので幅広い波及効果が期待される。