生活圏への放射性セシウムの流出抑制技術を開発
―里山の汚染の軽減、再生に効果
:茨城大学ほか(2016年5月10日発表)

 茨城大学と熊谷組グループ((株)熊谷組、テクノス(株))、(国)日本原子力研究開発機構(JAEA)の研究グループは5月10日、森林に降下した放射性セシウムが生活圏に移行するのを抑える技術を開発したと発表した。里山の汚染の軽減、再生に役立つという。

 森林の腐葉土層では放射性セシウムの多くは有機物と結合した状態にあり、それらのセシウムは有機物の分解によって水に溶け出すと森林植物に吸収されたり、傾斜地では降雨によって低地へと徐々に移行し、すでに除染を終えた生活圏へ流出したりして再汚染が懸念されている。

 研究グループが共同開発したのは、生活圏への放射性セシウムのこうした移行を抑える技術。

 放射性セシウムを吸着するベントナイトという粘土をまず森林傾斜地の腐葉土に散布し、放射性セシウムをこれに吸着させ、森林の植物に再吸収されるのを防ぐ。次に、ポリイオンコンプレックス(PIC)と呼ばれる高分子物質の電荷コントロールによって得られる正電荷過剰のPICと、負電荷過剰のPICのコロイドを用い、雨水などによって移行するベントナイトを凝集し、捕獲する。

 ベントナイト粒子はその表面が負電荷を帯びているため、ベントナイト散布場所より低い場所に正電荷過剰PICを散布しておけば、セシウムを吸収し、下ってきたベントナイトが静電的な力で捕獲される。

 さらに低い場所に負電荷過剰PICを散布しておくと、ベントナイトに固定されていない正電荷を帯びたセシウムが吸着できる。福島県飯舘村の里山で実験したところ、ベントナイトとPICコロイド両方の散布により、放射性セシウムの移行を効果的に抑えられることが確認できたという。

 PICの原料は粘土と同様に無害で大量に調達でき価格も安い。PICを含浸させたもみ殻などをろ過材として使うとセシウム除去にもつながることから、研究グループは新技術の適用により、森林生態系を守りながら穏やかに里山を再生することが期待できるとしている。

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