筑波大学と島根大学、日本電信電話株式会社は4月7日、代表的な無鉛の電子材料であるリチウム添加のタンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN)結晶について、ラマン分光法を使ったファノ共鳴の観測で、ナノサイズの極性領域を検出する手法を確立したと発表した。電子機器に欠かせないコンデンサーやセンサー、メモリーはこれまで人体に有害な鉛が多く使われていた。この検出手法は、結晶だけでなくセラミクスやナノ粒子にも使えるため、環境に優しい無鉛系誘電体材料への切り替えに大きな効果を発揮するとみられる。
強誘電体は温度が上昇すると常誘電体に変化し、圧電効果や電場によって光の屈折率が変化するなど、プリンターやコピー機、ディスプレー、光通信などに欠かせない材料だった。ところが有害な鉛の酸化物の使用が国際的に禁止されるようになり、代表的な無鉛系誘電体材料のKTN結晶に注目が集まった。だが電場の応答性能などが分かっていなかった。
KNT結晶は室温より少し低温域で誘電率が最大となって強誘電相に変化し、室温の常誘電相では屈折率が非常に大きくなる。リチウムを添加した今回のKTN単結晶では、温度31℃を境に誘電率が大きく変化することがわかった。今後、リチウム以外の添加物で新たな特性が見つかる可能性もある。
KTN結晶は、光の波長や強度、偏向、位相、進行方向など光の基本的な性質の全てを操る機能を持ち、レンズ、プリズム、ミラーを高速で動かすことができる。高速光スキャナーや光通信、医療機器などへの応用の道が期待されている。

KTNのラマンスペクトルにおけるファノ共鳴の説明図。連続準位を持つナノサイズ極性領域における分極方向(左側の結晶格子)と離散準位の光学モードTO2(右側の結晶格子)との相互作用によりファノ共鳴が起こる。