南海トラフ西方、プレート境界浅部で低周波微動
―日向灘沖で観測、巨大地震発生の仕組み解明に手掛かり
:九州大学/防災科学技術研究所/東京大学ほか(2015年5月8日発表)

 九州大学、東京大学、(国)防災科学技術研究所などの研究グループは5月8日、巨大地震の発生が警戒されている九州・日向灘沖の南海トラフ西方で新たな低周波微動をとらえたと発表した。地震の巣であるプレート境界の深部で「スロースリップ」と呼ばれる現象が起きるが、今回初めて浅部でも同様の現象が起きている可能性があることを示した。巨大地震や津波の発生の仕組みを解明する重要な手がかりになると期待される。

 

■深部のスロー地震の活動と高い共通性

 

 九大付属火山観測研究センターの清水洋教授らが、防災科研のほか鹿児島大学、長崎大学、東京大学地震研究所などと共同で明らかにした。

 九州・日向灘沖に設置した海底地震計12台を用いて2013年4月から4カ月間観測を進めたところ、5月下旬から約1カ月間にわたって通常の地震とは異なるデータが得られた。地震の波形や震源を分析した結果、プレート境界の浅い部分で発生する低周波微動であることが分かった。

 プレートの境界には境界面がしっかり結びついた固着域と滑りやすい領域があり、それらの動きを知ることがプレート境界型地震の解明につながるとして注目されている。プレート境界深部では、滑りやすい領域で低周波微動のほか超低周波地震、地震波を出さずに数日から数十年かけてゆっくり滑るスロースリップという3種類のスロー地震が空間的、時間的に同期して起きることが分かっている。

 今回の観測では、浅部の滑りやすい領域でも低周波微動と超低周波地震の活動が一致して起きていることが判明し、深部のスロー地震の活動と共通性が高いことも明らかになった。従来の研究では、深部の低周波微動と超低周波地震は数日間続くスロースリップによって引き起こされると考えられているため、研究グループは今回の観測結果がプレート境界浅部でもスロースリップが存在する証拠になるとみている。さらに、今回観測した浅部低周波微動の活動域はプレート境界の固着域を避ける形で移動していた。

 このため、研究グループは「浅部低周波微動がプレート境界の固着の程度をよく反映している」として、巨大津波の原因となるプレート境界浅部のすべりや、南海トラフ沿いの巨大地震の発生の仕組み解明に大きく役立つとみている。

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図

上は、観測機器を封入した耐圧ガラス球が入っている海底地震計。下は、海底地震観測網(黄色の四角、数字は観測点番号)によってとらえられた浅部低周波微動の震央分布(丸印、色は発生日時)。オレンジは小繰り返し地震(プレート境界で繰り返し発生するM2~4程度の地震)、緑の太線は大陸プレート下に沈み込んでいる九州パラオ海嶺(フィリピン海プレート上の海底山脈)の外縁、赤い矢印はフィリピン海プレートが沈み込む方向を示す。グレーの領域は、1968年、1996年の日向灘地震で大きくすべった領域(提供:(国)防災科学技術研究所)