ナノテクを利用し光触媒の高性能化に成功
―可視光でも機能し、色素分解の反応速度は6.5倍に
:物質・材料研究機構/京都大学

図

新型光触媒の光触媒反応速度。新型光触媒(赤)と酸化チタン単体(青)上での染色色素(メチレンブルー)の分解反応速度を比較。照射光は可視光で、左上の補助図で見ると、新型光触媒の分解素速度は酸化チタン単体に比べて6.5倍速かった(提供:物質・材料研究機構)

 (独)物質・材料研究機構は1月17日、京都大学と共同で太陽光によって水を分解しクリーンエネルギーの水素を作り出すのに有望な光触媒技術を開発したと発表した。紫外光にしか活性を示さない光触媒「二酸化チタン」を、ナノテクノロジーを使うことで太陽光に豊富に含まれる可視光でも効率よく機能するようにした。有害物質の分解などにすでに実用化されている光触媒の応用拡大につながると期待している。

 

■水分解による水素製造取り組みへ

 

 開発したのは、同機構高分子材料ユニットの三木一司グループリーダーと京大化学研究所磯崎勝弘助教らの研究グループ。
 二酸化チタンは代表的な光触媒材料としてよく知られているが、太陽光に4%しか含まれない紫外光が必要で、太陽光の約半分を占める可視光は利用できなかった。そこで研究グループは、可視光でも触媒として使えるようにする技術の開発に取り組んだ。
 研究グループは、ナノ(10億分の1)メートル単位の微細な空間では光同士が強い相互作用を起こす「近接場光」と呼ばれる現象に注目、可視光が紫外光の代わりに利用できるのではないかと考えた。
 そこで、金ナノ粒子を導電性基板に敷き詰め、その上に厚さ1nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の結合層を形成、さらにその層に二酸化チタンの粒子が結合する三層構造の素子を試作した。金粒子の直径は36nm、二酸化チタン粒子は直径3.5nmと、いずれも極めて微細なものとした。
 これに可視光を照射したところ、金ナノ粒子の隙間に入った可視光同士が近接場光の効果で強い相互作用を起こし、紫外線と同様に二酸化チタンのエネルギー状態を高めて光触媒を活性化させることを確認した。1cm2の素子表面に太陽光に近い広帯域の可視光を照射、色素のメチレンブルーがどう分解されるかを調べた実験では、二酸化チタン単独の場合に比べ分解速度が6.5倍に向上していることがわかった。
 研究グループは、「可視光を利用して光触媒が活性化できることが実証できた」として、今後は水分解による水素製造への応用に向けた実証に取り組む。

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