(独)農業生物資源研究所は3月9日、昆虫に固有の幼若ホルモンと、その輸送タンパク質とが結合した複合体の立体構造を世界で初めて解明したと発表した。血液中におけるホルモン輸送の仕組みがこれによって判明、害虫にだけ効く新たな農薬開発などが期待できるとしている。
幼若ホルモンは、胚発生、脱皮・変態、生殖など、卵から成虫までのあらゆるステージの生理現象に関わっている。昆虫にとって幼若ホルモンは、最も重要なホルモンの一つで、「アラタ体」という頭部の小さな分泌器官から分泌され、血液中の幼若ホルモン結合タンパク質(JHBP)と結合し、標的細胞や組織に運ばれて機能を発揮すると考えられている。
しかし、水に非常に溶けにくい幼若ホルモンが、どのようなメカニズムでJHBPと結合して血液中を移動するのかは全く分かっていなかった。
研究チームは今回、幼若ホルモンとJHBPの複合体をX線結晶構造解析と多次元核磁気共鳴解析手法で調べ、複合体の立体構造を解明することに成功した。それによると、JHBPと結合している幼若ホルモンは、JH結合ポケットと呼ばれるJHBP内部のポケットに格納され、ポケットの扉が閉じることで完全に外界から隔離されていることが分かった。
結合前のJHBPは、扉を開いた状態になっており、アラタ体の細胞膜から分泌された幼若ホルモンが結合ポケットに侵入すると扉が閉じ、こうした状態で幼若ホルモンは血中を移動、ホルモン分解酵素による分解や、標的細胞以外の部分への結合から守られているという。複合体が標的細胞に到達すると、環境変化を感知して扉が開き、ホルモンが細胞に移行して生理現象が誘起されると考えられるという。
現在、幼若ホルモンを模して作られた化合物が昆虫の変態を妨げる殺虫剤として使用されている。今回の立体構造解明により、幼若ホルモン様化合物の精密な設計が可能になり、害虫にだけ効き、人に影響のない新規農薬開発の加速が期待できるとしている。
No.2012-10
2012年3月5日~2012年3月11日