(独)国際農林水産業研究センター(JIRCAS)は10月14日、アンモニアの硝化を抑制する機能を持つ熱帯イネ科牧草の根から、土壌中に放出される硝化抑制の原因物質を発見したと発表した。
土壌中の微生物の働きにより起きるアンモニアの硝化(アンモニアが亜硝酸を経て硝酸へと酸化される反応)は、土壌中での窒素循環に重要な役割を果たしている。その一方で、硝酸や亜硝酸は土壌から流れ出し易く、農業生産に用いられる窒素成分の大部分が使われないまま環境中に放出され、経済的損失や環境汚染を引き起こす原因の一つになっていた。また、硝化の過程で、地球温暖化ガスの一つである亜酸化窒素(一酸化二窒素:N2O)が発生することも知られている。
同センターは、これまで南米のコロンビアにある国際熱帯農業センターと共同で、南米のイネ科牧草の一種である「グリーピングシグナルグラス」が、硝化を抑制する機能を持っていることを明らかにし、この現象を「生物的硝化抑制」と名付けた。
この作用をうまく活用すれば、土壌中での窒素肥料の利用効率が良くなり、経済的なメリットがあるばかりでなく、地下水汚染や温暖化といった環境問題の解決にも貢献できる可能性があるため、世界的な注目を集めている。
今回の研究では、「グリーピングシグナルグラス」から硝化抑制の作用を支配する物質として「ブラキアラクトン」と命名した新しい物質を発見した。
この物質は、根から土壌に浸み出して、生物的硝化抑制をもたらしており、この牧草が有する生物的硝化抑制作用の6~9割は、この物質に起因していることを解明した。
また、この物質を根から放出するためには、土壌中のアンモニウムイオンの存在が必要であることも明らかにした。さらに、3年間この牧草を栽培した牧草地では、裸地やダイズを栽培した場合に比べて、土壌の硝化作用が9割、N2Oの発生量が6割以上も減少することを確認した。
生物的硝化抑制は、効率のよい施肥システムの構築に向けた有効な手段として期待されている。また、その活用により、作物生産だけでなく、環境対策にも役立つものと期待がもたれている。
この研究成果は、10月13日に米国科学アカデミー紀要に掲載された。
No.2009-41
2009年10月12日~2009年10月18日