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固体を試料に高次高調波の発生に成功―発生メカニズムの解明に向けて新知見:京都大学/東京大学/量子科学技術研究開発機構/筑波大学

(2020年7月29日発表)

 京都大学と東京大学、(国)量子科学技術研究開発機構、筑波大学の共同研究グループは7月29日、固体の半導体単結晶に高い電場強度のレーザーパルスを照射し、入射レーザーの整数倍の光エネルギーを持つ高次高調波を発生させることに成功したと発表した。この実験成果を理論解析することにより、高次高調波光の発生機構の解明につながる新知見が得られたという。

 高次高調波光は、レーザー光を物質に照射した時に、入射したレーザーの光エネルギーの整数倍の光エネルギーを持って発生する光のこと。気体からの高次高調波発生は以前から精力的に研究され、X線源などの光源が開発されたり、アト(10-18)秒のレーザーパルスが生み出されたりしている。

 一方、固体は気体に比べて高い電子密度を持ち、高効率でコンパクトな光源となりえるため、デバイス開発への応用が期待されているが、原子やイオンの密な固体は光が作用する電子系のエネルギー状態は極めて複雑で、高次高調波の発生の理解はほとんど進んでいなかった。

 研究グループは今回、太陽光発電などへの応用が研究されているペロブスカイト型の半導体単結晶を試料として用い、高次高調波光を発生させた。その際、入射する励起光パルスの偏光の角度を変化させたところ、結晶の対称性を反映した放射効率の変化が観測された。

 また、入射光強度を強くすると異方性が弱まる傾向が観測された。

 これらの実験結果を時間領域密度行列法という計算式を用いて解析し、実験で観測された発生効率の励起(れいき)光強度依存性や結晶角度依存性などの実験結果を再現することに成功した。

 実験と理論計算との比較の結果、従来、発生機構として考えられてきた強光電場で駆動される電子の運動だけでなく、価電子帯から伝導帯に励起されるキャリアの応答の非線形性が重要な役割を果たすことが初めて明らかになったという。

 今回の成果は、高次高調波を用いた新規な光源開発や物質の分析技術などへつながることが期待されるとしている。