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「カラクシン」の欠損が繊毛病を引き起こす―海の生物から脊椎動物まで保存された繊毛調整機能:筑波大学

(2019年6月20日発表)

 筑波大学生命環境系らの研究グループは、体の運動器官である繊毛のカルシウムセンサーの「カラクシン」が欠けると、繊毛病を引き起こすことを明らかにしたと、620日に発表した。繊毛病とは、体内の鞭毛や繊毛に関係する遺伝子の異常が原因で起きる病気で、脳室が異常拡大する水頭症や心臓の位置が左右逆転する内臓逆位、不妊などの深刻な疾患を引き起こすことが知られている。大阪大学、国立成育医療研究センター、東京大学、明治大学、愛知教育大学との共同研究の成果となった。

 鞭毛、繊毛は生物の運動器官のひとつで、細長い毛状のもの。いずれも長さ1040μm(マイクロメートル、1µm100万分の1m)程度で、密に生えた繊毛を同一方向に順番に波打たせることにより泳ぎ回る動力にしたり、食べ物を手繰り寄せたり、老廃物を排出したりする。

 内部構造や運動機能などは双方ともほぼ同じ。精子やクラミドモナス(単細胞の緑藻)のように12本しかないものが「鞭毛」、気管上皮細胞やゾウリムシなどのように密生しているのが「繊毛」と呼ばれている。

 また分子モーターとは、分子レベルのたんぱく質群が動力となって生物の器官を自在に動かす働きをする。ダイニンは巨大な分子モーターで、カラクシンはダイニンに結合する新規のカルシウム結合たんぱく質をいう。

 筑波大の稲葉一男教授のグループが、かつて海産動物のホヤの精子から鞭毛の分子モーターを制御する新規のたんぱく質を発見し、「カラクシン」と名付けた。ホヤの精子が卵(らん)に向かって動く(走化性)ためにはカラクシンが必要なことは知られていたが、脊椎動物での機能は不明だった。

 研究グループはマウスのカラクシンを欠くとどうなるかを調べた。ホヤでは精子の走化性に必要なため、欠損したマウスは不妊症になるだろうと予想した。ところが仔マウスの数は減少するものの、雌雄とも不妊にはならなかった。

 鞭毛や繊毛の運動を詳細に解析したところ、作られる屈曲波(曲げ波)と呼ばれる波の伝わり方に異常がみられた。さらに内臓の位置などを決定する繊毛の数が、生まれて間もなくは著しく減少し、方向性を持った正常な水流が起こらなかった。

 こうしたことから、カラクシン欠損によって結果的に繊毛病につながることや、マウスのノード繊毛形成にはカラクシンが重要な役割を果たすことが明らかになった。

 今後はカラクシンがどのように鞭毛や繊毛の屈曲を制御し、運動をコントロールして繊毛形成に関わっているか、また体内受精時の精子運動の制御など、基礎生物学的な解明につなげたいとしている。