[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

呼吸しても空気が漏れない肺手術用接着剤を開発―スケソウダラのゼラチンを原料に高い性能引き出す:物質・材料研究機構ほか

(2019年2月14日発表)

 (国)物質・材料研究機構と筑波大学の研究グループは214日、呼吸しても空気が漏れない肺手術用の接着剤を開発したと発表した。スケソウダラ由来のゼラチンを用いたもので、現在主流の血液由来の接着剤を大幅に上回る性能を持っており、実用化が期待されるという。

 肺を切除手術すると、縫合糸(ほうごうし)を使って閉じても切除部からの空気漏れを完全に防ぐことはできないため、ヒトの血液から調整したフィブリン接着剤を漏れ防止に使っている。このフィブリン接着剤は、生体親和性は高いが、組織や臓器に対する接着強度は低く、また呼吸に伴う肺の拡張・収縮に対して追従性が十分ではないという弱点がある。

 研究グループはこの問題の解決に取り組み、今回、スケソウダラ由来のゼラチンを用いて空気漏れの起きにくい高性能な接着剤を開発した。

 新接着剤は、疎水基の一つで組織接着性が大きいデカノイル基をこのゼラチンに化学修飾したデカノイル化タラゼラチンをつくり、これにポリエチレングリコール系架橋剤を作用させて得た。

 ブタ摘出肺の欠損部にこの接着剤を塗布し、肺を拡張させたところ、表面積が2.9倍になるまで剥離せず、フィブリン接着剤の約2倍の追従性が認められた。これは、手術後に呼吸しても肺表面に十分に接着する特性があることを示しているという。

 ブタ摘出肺に開けた穴に対する接着剤の耐圧実験では、フィブリン接着剤の約1.4倍の高い耐圧強度が認められた。これは咳をした時の気道内圧上昇にも十分耐えられる性能という。

 新接着剤は患部に適応後5秒以内に硬化し、生体組織の修復に伴い体内で分解、吸収されるという特性も持つ。これらはいずれも肺がん手術後の接着剤に適した特性・性能であることから、研究グループは今後実用化を目指して前臨床試験や生物学的安全性試験を進めるとしている。