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水洗トイレで飛散するウイルス挙動の画像化に成功―対策は便座の拭き取りと、水洗時に便器から15cm離れる:産業技術総合研究所

(2024年10月28日発表)

 (国)産業技術総合研究所と金沢大学は10月28日、トイレの水洗時にウイルス粒子を含むエアロゾルがどのように飛散するかを測定し、汚染状況の画像化に成功したと発表した。エアロゾルは空間に浮遊する微粒子と気体の混合体で、その飛散量は便座裏面とトイレ壁面が多く、湿度が高いと拡散しやすかった。この結果を基に、より衛生的で新たな付加価値を備えた便器の開発をメーカーに期待している。

 コロナ禍以降、ウイルスの汚染対策に社会の関心が高まっている。しかし科学的根拠に基づかない風説や思い込みが存在している。そこでトイレ利用後の水洗で発生するエアロゾル飛沫や衛生管理のあり方を探った。トイレを模した密閉個室を作成し、各部にレーザー光を当てて飛沫の散乱強度などを測定し、画像化した。

 ウイルスは安全性が確保されたものを使用し、ウイルスを含む飛沫は直径数μm(マイクロメートル、1µmは100万分の1m )から数百μmの粒径が観察された。大きな飛沫は放物線を描いて落下したが、小さな飛沫のエアロゾルは浮遊し、これらのエアロゾルは水流後にはトイレ室内に数分から数十分漂う可能性がある。飛沫は均一ではなく、水流による空気の流れが影響して便座手前と後部に多かった。高さは40㎝から50㎝にも達していた。

 フタの開閉では、閉めると当然ながらエアロゾルの発生と拡散は抑えられるが、一部が前方に15cm程度染み出していた。このため水洗時には便器から15cm以上離れて操作するのが有効といえる。

 水洗で生じる飛沫は様々なところに付着し残留する。便座と周辺を綿棒で拭い取り、ごく微量を数百万倍以上に増幅できるPCR法で測定した。

 便器の外に排出されたウイルスは、便器内より10万分の1以下と極めて低濃度だった。ただしゼロではないため感染リスクを下げるには、使用前に便座を清掃し、水洗時に便器から15㎝以上離れるなどの予防策をとることが効果的としている。

 清掃の際には定期的にフタや便座と共に便器から25㎝以内の壁面の拭き取りも必要だとしている。

ふたの開閉に伴う飛沫の広がり方の違い(縦横軸の単位はcm)
(提供:産業技術総合研究所)