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世界最大の海底火山の噴火年代が1,000万年も若いと決定―白亜紀の地層年代の見直しや、恐竜など陸上生物の繁栄の解明にも影響:国立科学博物館/海洋研究開発機構

(2023年6月16日発表)

 (独)国立科学博物館と(国)海洋研究開発機構の研究グループは6月16日、世界最大の海底火山体のオントンジャワ海台の噴火が、過去の推定年代より約1,000万年若いことを明らかにしたと発表した。噴火活動の若返りは、白亜紀の地球温暖化の早まりや恐竜など陸上生物の増加の見直しを迫りそうだ。

 オントンジャワ海台は、西太平洋の赤道付近、ソロモン諸島の北にある巨大な火山起源の隆起層をいう。海面に近い上部が比較的平坦で広大なのが特徴で、日本の国土面積の5倍もある。太平洋にはこうした巨大海台が複数あり、白亜紀の活発な火山活動で形成されたとみられる。

 オントンジャワ海台の噴火年代は、海洋掘削や陸上に露われたソロモン諸島の火山岩(玄武岩(げんぶがん))から放射性年代測定法で推定してきた。しかし噴火から1億年以上も経過しているため玄武岩の化学組成が変化しており、変質の影響を受けていない新鮮な岩石についての分析が必要になった。

 2017年、海洋研究開発機構の調査船「白鳳丸」によってソロモン諸島、マライタ島沖の5カ所に鉄のバケツを海底に降ろし、底引き法で新鮮な玄武岩を採取した。

 マグマは化学組成を基に3つの年代に区分される。アルゴン年代測定の結果、「クロエンケ(1億1,086万年〜1億827万年前)」が最も若く、「シンガロ(1億1,685万年前〜1億1,442万年前)」が最も古いマグマタイプだった。従来説ではオントンジャワ海台の年代値の多くは1億2,300万年から1億2,000万年前と見られていたが、今回の年代測定によって1億1,685万年前から1億827万年前にかけて858万年間も活動していたことが分かった。

 新年代値が若く出た理由は、分析の際に起る試料の変質が原因だった。中性子を照射すると「アルゴン39」の一部が外部に飛び出して失われる現象が発生し、相対的に古い年代値を示しやすいためだった。今回は新鮮な斜長石(しゃちょうせき)だけを分離し、慎重に正確な年代値を割り出した。

 オントンジャワの噴火は、海底の有孔虫(ゆうこうちゅう)化石の年代などから地球上の海洋生物が大量に絶滅した「海洋無酸素事変」を引き起こしたと考えられてきた。新たな年代値によると、噴火は海洋無酸素事変より1,000万年も後に起きたことになる。オントンジャワの活動は最初の海洋無酸素事変ではなく、2番目に起きた事変と関係し、少なくとも600万年間もの長期にわたって継続したことが判明した。

 マグマ活動は約1億2,300万年前から1億800万年前まで1,500万年間も継続していた。これまで推定された巨大海台のマグマ活動期間よりも一桁長い活動期間となった。

 今回の研究成果を機に、白亜紀の海の年代見直しが進みそうだ。噴火活動の時期が若返ったことで、火山ガスの影響による地球温暖化も白亜紀の前期・後期の境目付近になりそうだ。この時期は恐竜などの陸上生物の種類が増加しており、生物の繁栄と火山噴火との関連の解明にもつながると期待される。