光を照射するだけで腎臓の障害を調べる技術を開発
(2026年9月15日)
腎臓(じんぞう)の障害を放置すると腎組織が硬くなる繊維化が進行し、最終的には人工透析や腎臓移植が必要な末期腎不全に至ります。そのため早期に診断して治療を開始することが求められますが、自覚症状があらわれにくく、腎臓は早期に障害を把握することが難しい臓器です。
腎臓に針を刺して組織を採取する腎生検(じんせいけん)によって腎臓内部の細胞の状態を調べられるとはいえ、診断を受ける人の体への負担が大きいという問題があります。血液検査、尿検査で測定できる腎障害マーカーの数値は、腎臓全体の平均値でしかなく、腎臓のどこに障害があるかまでは把握できません。超音波やMRIを利用した画像診断では、腎臓の形の情報を得られるものの、薬剤を投与することなく腎機能が損なわれているかどうかを評価することは困難です。
そこで大阪大学大学院医学系研究科の研究グループは、体への負担が少なく、薬剤を投与することなく、腎臓の状態を調べる技術の開発に取り組み、その際、近赤外光(きんせきがいこう)に着目しました。近赤外光は人間が見ることのできる可視光(かしこう)よりも波長が長い、波長650~950ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)程度の光を指します。血液やタンパク質に吸収されにくく、皮膚や筋肉を通り抜け、他の波長帯の光肉食べて体の深くに達することから、すでに病気の診断や光を用いて治療に利用されています。
ただし、近赤外光を当てさえすれば、腎臓の障害を診断できるわけではないため、研究グループは光を浴びた細胞が蛍光を発する自家蛍光(じかけいこう)を利用することにしました。腎臓を診断に利用できる、蛍光を発する光を探索した結果、710ナノメートルの近赤外光を照射した場合、正常な細胞は蛍光を発しないのに、障害のある細胞だけ810~875ナノメートルの蛍光を発することが分かりました。
障害のある細胞だけが蛍光を発するメカニズムを調べたところ、蛍光には主にコプロポルフィリンⅢという分子が関わっていることが分かりました。この分子は血液中を流れる赤血球にあって、酸素の運搬で中心的な役割を果たすヘムという分子が体内で合成される際の中間体なのですが、障害を受けた腎臓ではコプロポルフィリンⅢを分解する酵素のCPOX(コプロポルフィリノーゲンオキシダーゼ)の働きが低下していることが分かりました。その結果、腎臓の障害箇所でコプロポルフィリンⅢが蓄積し、近赤外光を受けて自家蛍光が起こっていたのです。
こうした現象は腎臓障害を患う3種類のモデルマウスで確認されました。これらのマウスに対して薬剤治療を行ったところ、自家蛍光の強度の低下が認められ、近赤外光による腎障害の診断は治療の効果を確認するのにも利用できることが分かりました(図)。同様の仕組みの自家蛍光は、人間の腎臓の部分摘出サンプルでも確認されていますが、人間の腎臓は近赤外光をもってしても届かないほど深いところにあるため、すぐに実用化することはできません。それでも内視鏡に組み込むなどして腎臓の診断に役立てられると期待されています。

【参考】
■大阪大学プレスリリース
\傷んだ腎臓が光る!/ 光による腎障害の非侵襲的イメージング方法を確立~近赤外光を用いた新しい腎障害モニタリング技術~
■国際科学誌「Kidney International」に公開された論文
Non-invasive quantitative assessment of kidney injury using near-infrared autofluorescence imaging

斉藤 勝司(さいとう かつじ)
サイエンスライター。大阪府出身。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に紹介している。

